窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

「嫌われ松子の一生」はコメディか?(DVD)

小説が面白かったのでDVDを借りてきた。

題名嫌われ松子の一生
原作山田宗樹
監督中島哲也
音楽松本晃彦
出演■本人および家族/奥ノ矢佳奈(川尻松子、子役)、中谷美紀(川尻松子)、市川実日子(川尻久美、松子の妹)、柄本明(川尻恒造、松子の父)、キムラ緑子(川尻多恵、松子の母)、香川照之(川尻紀夫、松子の弟)、濱田マリ(川尻悦子、紀夫の妻)、瑛太(川尻笙、松子の甥)
■教師時代/谷原章介佐伯俊二、歯がまぶしく光る同僚教師)、竹山隆範(教頭)、角野卓造(校長)、甲本雅裕(宿屋の従業員)
■同棲時代/宮藤官九郎(八女川徹也、作家志望・同棲相手)、劇団ひとり(岡野健夫、作家志望のサラリーマン・愛人)、大久保佳代子(岡野芳江、健夫の妻)
トルコ嬢時代/谷中敦(中洲トルコ「白夜」マネージャー)、ボニー・ピンク(綾乃、トルコ嬢)、武田真治(小野寺、同棲相手)、荒川良々(島津賢治、玉川上水の理容師・同棲相手)、渡辺哲(小野寺殺しを追う刑事)、山本浩司(小野寺殺しを追う刑事)
■刑務所時代/木野花(取調べ担当警察官)、AI(女囚A、唄)、山下容莉枝(女囚B、家族)、土屋アンナ(女囚C、プライド)、山田花子(女囚D、思い出)、黒沢あすか(沢村めぐみ/水沢葵、AV女優・松子の親友)、嶋田久作(牧師)、あき竹城(出所後を心配する係官)
■出所後/伊勢谷友介(龍洋一、松子の元教え子)、ゴリ(大倉修二、アパート隣人)、マギー(松子殺しを追う刑事)
■その他/柴咲コウ渡辺明日香、笙の(元)恋人)、片平なぎさ片平なぎさ、挿入されるサスペンスドラマのヒロイン)、本田博太郎本田博太郎、サスペンスドラマの犯人)、田中要次田中要次、サスペンスドラマの刑事)、木村カエラ(人気シンガー)、阿井莉沙(小川マリア、アイドル歌手)、蒼井そら(スカウトされる子)、木下ほうか、江口のりこ、他
制作日本(2006年5月27日公開)
時間130分

映画としてはこれはこれでいいのかも知れない。中谷美紀が「この役をやるために女優を続けてきた」みたいなことを言っていたそうなので、期待したのだが、正直なところ、今ひとつピンとこなかった。

独特の手法がいくつか重ねて用いられていた。人工着色的な派手な色彩やいかにもCG的な効果の多様、ミュージカルのように歌や踊りがふんだんに取り入れられていたこと、特にストーリーを歌の歌詞で説明してしまうところなど。最後のものは、長い話をダイジェストする目的と、具体的な描写がはばかられるもの(ソープ嬢としての苦労話など)をさらっと紹介する意図のようで、ネットをちょっと見てみるとあちこちで称賛されているけれど、これといって感心しない。

小説を読んで面白いと思った箇所がことごとく外されていたのが残念だった。たとえば、30年前から始まる松子の生涯と現在の笙とがぐんぐん近づいてくる疾走感がまるでなかった。

そもそも笙の影が薄い。松子は他人のお金に手をつけてクビになり、家出をして、娼婦に身を落として、生家からは勘当され、人を殺して服役し、晩年は仕事もなく友人もなく近所の人からも疎まれ最後は殺されてしまうという、いいとこなしの人生のようにも思える。が、死んだあと笙(と明日香)の心を動かし、笙を大きく成長させる糧となる。明日香が自分の進路を決めたのも、松子の存在が影響していると言っていい。そこにこの話の肝があるように感じたのだが、映画では松子の死が知らされる前に明日香と別れているし、笙の成長ぶりが描かれない。ラストも妹が「おかえり」という場面で終わってしまっている。消化不良だ。

先に「映画としてはこれはこれでいいのかも知れない」と書いたのは、そういう解釈もあるのかも知れないと思ったからだ。小説の再現を期待するのでなければ。とはいえ、雄琴の店が中洲に比べてどれだけ大変だったかは描かれず、綾乃は殺されず、覚醒剤を打たれる場面もカットされていたから、なんで松子が小野寺を殺したのかがわからない。

また、美容師としての彼女の腕前も示されていなかったため、沢村めぐみがなんで彼女に「ウチにきて」と言うのか意図が不明だ。単に同情とか憐みだけで声をかけているようにも取れる。それでは彼女はウンとは言わないはずだ。

小説では、松子がいったん捨てためぐみの名刺を探しているところで殺されるが、映画では名刺を握りしめていたことになっている(だから、小説では笙が知らせるまでめぐみは松子の死を知らないが、映画では真っ先に連絡が行き、めぐみから笙に近づいてくる)。この方がいいのかも知れない。前向きに一歩進もうとしたことをはっきりと示したわけだから。

映画で一番印象に残ったのは早世した久美だ。考えてみれば久美の人生も悲惨である。病弱で出歩くこともままならないのに、それが理由で姉からは嫌われ、憎まれ、殺されかけ、捨てられるのだから。それでも彼女は姉を待ち続ける。決して戻ってこない姉を……いや、最後は戻ってきた、ということか? ラスト、階段の上で松子と久美が邂逅する場面では、完全に市川実日子中谷美紀を食っていたのではないか。

劇中挿入歌の「LOVE IS BUBBLE」(BONNIE PINK)が印象的。あのソープ嬢に扮していたのがボニー・ピンクだったとはね。