「東京島」を観たいと思っていたのだが、ようやく時間が取れて、観に行こうかと思ったらどこもやっていない! まだ公開されて一ヵ月しか経っていないのに! それで、その次に観ようと思っていた「悪人」を観ることにした。
題名 | 悪人 |
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監督 | 李相日 |
原作 | 吉田修一 |
出演 | 深津絵里(馬込光代)、妻夫木聡(清水祐一)、岡田将生(増尾圭吾)、満島ひかり(石橋佳乃)、柄本明(石橋佳男、佳乃の父)、宮崎美子(石橋里子、佳乃の母)、樹木希林(清水房江、祐一の育ての母)、井川比佐志(清水勝治、房江の夫)、光石研(矢島憲夫、祐一の雇い主・おじ)、余貴美子(清水依子、祐一の産みの母)、塩見三省(刑事)、池内万作(刑事)、山田キヌヲ(馬込珠代、光代の妹)、松尾スズキ(霊感商法の運営者)、永山絢斗(鶴田公紀、増尾圭吾の友人だが増尾の態度に腹を立ててもいる)、モロ師岡(バスの運転手)、他 |
公式サイト | 吉田修一『悪人』公式サイト |
制作 | 日本(2010年9月11日公開) |
雑感
面白かった。内容は救いのない話だし、厭な奴がたくさん登場するし、後味のよい作品ではないが、そういうことを描いた作品であって、映画としてはかなりきちんと作られた、良質の作品だと思う。そういう点で「面白かった」のだ。
予告編も見たことがないし、原作も知らないし、ポスターやパンフレットすら真面目に見たことがなく、要は予備知識がほとんどない状態で観た。知っていることといえば、モントリオール映画祭に出品され、深津絵里さんが主演女優賞を受賞した(9月7日)ことくらい。内容に関しては何も知らなかった。
実は男性向け週刊誌の記事で、深津絵里の濡れ場が実に色っぽい的なレビューが載っているのは読んだことがあったため、結構エロい話なのか、という妙な先入観だけがあったのだった。実際は、確かに二人が抱き合うシーンがあり、それは情熱的に演じられてはいるけれど、全体の中ではわずかなカットであって、全然エロくはない。深津絵里が脱いだわけではない。
さて、観終わってからいろいろ資料を見てみると、公式サイトでもパンフレットでも「誰が本当の『悪人』なのか?」というアオリがさかんに書かれている。でも、これは違うのではないだろうか? この作品には「悪い人」が何人も出てくるが、それぞれの「悪人度」の比較をしているわけではないし、殺人事件が起きるのだけれども、一番責任があるのは誰か、をあばこうとしているわけでもない、と思う。
人間は、100%いい人なんて、なかなかいない。いい面も持っているが悪い面も持っている。悪い面を持っているがいい面もある。また、見る人によってよく見えたり悪く見えたりする。そういう複雑な絡みの上に人間社会が成り立っている、ということを抉り出してみた、ということなのではないだろうか。
ついでに、「なぜ愛したのか?」というアオリもあったけど、光代と祐一は、別に愛し合ってなんかないと思う。確かに、物語の後半で二人は離れられず、激しく求め合うが、祐一からすれば極限状況に陥って他に頼る人が誰もいなかったからで、光代にしてみたら、そういう状況に酔っていただけではないかとと思う。
ところで、佳乃の父が、増尾圭吾に殴りかかったものの返り討ちにされ、道端にうずくまり、苦しがるシーンがある。そこへ通りがかった鶴田公紀から「大丈夫ですか」と親切に声をかけられたのに、「うるさい」と怒鳴って突き飛ばす場面は、佳乃が増尾に自動車から無理やり降ろされ、途方に暮れているところを祐一に親切にされたのに逆切れをしたシーンを想起させた。ああ、親子なんだなあと思った。これは偶然か? そこまで計算しての演出か?
最後に、気になったことを。
- 主役は深津絵里だと思っていたが、物語が始まって約40分を過ぎるまで登場しない。最後まで見てから振り返れば構成は悪くなかったことがわかるのだが、核になる話が見えてこないので、最初は割とイライラしていた。
- 仕事を無断欠勤し、男と逃避行を続けていた(しかも殺人犯)ということがわかれば、普通なら解雇処分ではないか。光代が元の職場に戻れたのは不思議。
- 佳乃が出会い系にアクセスしていたのはすぐにわかるだろう、特定の男に会っていたこともわかるだろう、しかし、それが祐一であるとどうしてわかったのだろうか? また、光代が行き先も告げずに家を空け、連絡を寄越さないからといって、なぜ祐一と一緒にいることがわかったのか? このあたり、ちょっと説明不足な気がする。
- 祐一の母がなぜ祐一を捨てたのかが不明。祐一の父がどうなったのかも不明。置き去りにされた祐一がどうやって祖父母の元にたどりついたのかも不明。こうしたバックグラウンドが祐一に罪を犯させたというのであれば、もう少しきちんと描いてほしかった。
- 作者: 吉田修一,李相日
- 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
- 発売日: 2010/08/06
- メディア: 文庫
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配役
リンク
- 妻夫木聡、深津絵里 インタビュー(Yahoo!映画)
- 受賞はしたけれど......タイミングが悪い映画『悪人』の不運(日刊サイゾー、2010/09/26)
- 『悪人』を見た(ときどき休みます、2010/09/23)
- 映画『悪人』のどこに僕は感動したのか(ときどき休みます、2010/09/24)