窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

「麒麟の翼」は出色

これは本当に面白かった。ミステリーとしても堪能できたし、人間ドラマとしても楽しめた。今年観た映画の中では文句なしに最高……って、まだ2本しか観ていないけど。中井貴一の熱演が光る。

題名麒麟の翼
監督土井裕泰
原作東野圭吾
出演■TVドラマからの登場/阿部寛(加賀恭一郎、警視庁日本橋署刑事)、溝端淳平(松宮脩平、警視庁捜査一課刑事)、松重豊(小林、警視庁捜査一課主任)、黒木メイサ(青山亜美、雑誌記者)、山崎努(加賀隆正、恭一郎の父)、田中麗奈(金森登紀子、看護師)
■本作初登場/中井貴一(青柳武明、カネセキ金属製造本部長・被害者)、松坂桃李(青柳悠人、武明の長男)、竹富聖花(青柳遥香、武明の長女)、三浦貴大(八島冬樹、青柳殺害の容疑者)、新垣結衣(中原香織、容疑者の恋人)、鶴見辰吾(小竹由紀夫、カネセキ金属工場長)、柄本時生(横田省吾、カネセキ金属派遣社員)、劇団ひとり(糸川肇、青柳悠人の水泳部の顧問)、菅田将暉(吉永友之、青柳悠人の水泳部の後輩)、秋山菜津子(吉永美重子、友之の母)、山崎賢人(杉野達也、青柳悠人の同級生)、聖也(黒沢翔太、青柳悠人の同級生)、他
公式サイト映画『麒麟の翼 〜劇場版・新参者〜』公式サイト
制作日本(2012年1月28日公開)
劇場109シネマズ港北

雑感

事件が発生し、その直後に容疑者が浮かび上がる。どこからどう見てもその人が犯人としか思えない。ミステリーとしては、その人が犯人のはずがないわけだが、調べれば調べるほど容疑は高まる……。いったいこれがどう突き崩されるのか、いくつかの「謎」はどうしたら一本につながるのか、最後まで全く目が離せない。そうした点でまず秀逸。

それにプラス、加賀恭一郎だからといってしまえばそれまでだが、人間ドラマが加わる。これがまたうまい。テーマは「絆」だが、必ずしもハッピーエンドではない。結果的にかなり残酷なものと向き合っていかなければいけないが、そうした「考えさせる」余韻を残しているのも醍醐味だろう。

前半はいくつかのユーモラスな掛け合いもあり、重たいテーマもあるにはあるが、楽しく観られる。三拍子揃った見事な作品だと思う。これを見るために熱心に予習(TVシリーズ「新参者」およびスペシャル版「赤い指」をあらかじめ見ておいたこと)していたことも役に立った。

ただし、映画としてどうかといえば疑問も残る。独立した作品としても見られるので、「のだめカンタービレ」に比べればマシではあるが、予習が役に立ったということは、裏を返せば、予備知識なしに本作品を見ても100%は愉しめないのではないかと思うのだ。

本作品だけ考えれば、金森登紀子はいらない。本作のテーマである「家族の絆」には、加賀家の家族の絆も含まれるという意図なのだろうが、恭一郎とその父との関係(葛藤)は「赤い指」でじっくりと描いたテーマである。ついでに青山亜美もいらない。ドラマから見ている人間にとっては不可欠のキャラクターだが、被害者を見かけたという喫茶店のウエイトレスに加賀がいきなりお前呼ばわりして、前作を知らない人は戸惑うだけだろう。

ドラマで人気が出たから映画化するのか、映画の宣伝のために先にTVドラマを作るのかわからないが、ドラマの続きを映画で、という手法はそろそろ考え直した方がいいのではないか。

配役

柄本時生柄本明の子で柄本佑実弟柄本明(と角替和枝)の子は二人とも俳優になっていたのか……。

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ネタばれ注意

  • 中原香織は妊娠3ヵ月だった。本人が話したわけではないのに、八島冬樹がそれを知っていたのは少々驚きだ。3ヵ月といえば、本人だって気付かなくても不思議はないレベルでは。母子手帳でも見つけたのか。
  • 若い時の貧乏は大いにすべし、と言いたいところだが、冬樹や薫の貧しさは、将来が見い出せない。絵馬を買ったら帰りの電車賃がないとか。でも今ワーキング・プアと言われる層は、こんなものなのだろう。切ない。
  • 金森登紀子や加賀恭一郎の、香織に産ませようと追いつめる態度には疑問。それは、せっかく授かった命を葬るのは確かに切ないが、身寄りもなく、貯金もなく、身ごもった身体でこれから一体どうやって生活していくのか。香織は冬樹と結婚していたわけでもないし、なんといってもまだ若い。彼女の生涯のしあわせを考えるなら、堕ろした方がいいとの判断も成り立つ。そこまでいうなら仕事の紹介くらいしてやれよ、とちょっと思った。
  • 労災隠しに関しては、公的機関の調査は入らなかったのだろうか。結果からするに、新聞報道はかなり杜撰だ。
  • 青柳悠人が小竹由紀夫を殴りつけ、「オヤジはそんな汚いことをする人間じゃない」と叫ぶシーンはハイライトのひとつだが、残念ながら、個人の犯罪(万引きだとか痴漢だとか)と違い、会社の業務として法を犯すというのは、担当者の性格とはあまり関係がないんだなあ。むしろ、正直で善人な人ほど、やむにやまれず一線を越えてしまうことが多いのではないだろうか。今回の一件は、青柳武明には非がなかったという結論のようだが、そのようなことが公然と行なわれていたことを本当に何も知らなかったのだとしたら、青柳武明はかなり無能だということになる。まあ、実際息子に何が起きたのか何も把握していなかったくらいだから、そういう呑気な人間なのかも。
  • 結局、八島冬樹はなぜ逃げたのだろう? 警官に職質をかけられた時に「済みません!」と素直に鞄を差し出せば、説教で済んだ話だろう。重症の青柳武明を見て、動揺していたのかも知れないが……