漫画の「テルマエ・ロマエ」は単行本が現在4巻まで出ているが、累計で500万部以上売れているというメガヒットである。映画は4月28日に公開されるとコナンを押しのけて週間ランキングで一位を獲得、以来3週連続一位で、こちらも大ヒットだ。
作者のやまざきまり氏は、マニア向けに描いたつもりだったのになぜこんなに受けたのかわからないと言い、結局、お風呂好きの人がそれだけ多かったということでしょうか的なことを、あちこちで書いている。彼女の夫によれば、豊穣の象徴である男性器を一巻(単行本)の表紙にていねいに描いたことはよかったんじゃないかということで、作者も、案外当たっているのかも、と単行本のコラムで述べている。
僕は以前から原作は好きで単行本も全部揃えている。この面白さはマニアックな面白さではなく、実にわかりやすい面白さだと思っていたから、なんで作者にはそれがわからないのか、なかなか不思議な気持である。もっとも、じゃあその面白さはなんなのか説明しろと言われてもできない。できなかった。
過日、『「テルマエ・ロマエ」見たよ』(子持ちししゃもといっしょ、2012/05/11)を読み、目から鱗が落ちる思いだった。
僕なりに要約すると、この作品は、ルシウスが日本の風呂をはじめとする文化に大げさに驚くところが面白いわけだが、それは日本の文化を肯定してくれているということであり、引いては自分が肯定されたように感じてしまう。だから嬉しいし、安心して笑っていられるというわけだ。
もともと比較文化論というのは、日本人の好きなテーマである。古くはルース・ベネディクトの「菊と刀」(1949)やイザヤ・ベンダサンの「日本人とユダヤ人」(1970)、またロバート・ホワイティングの「和をもって日本となす」(1990)などベストセラーがいろいろ思い当たるし、書店に行けば類似の本はいくらでも並んでいる。こうした本は、ともすれば日本人はダメだという結論になることが多いが、やはり欠点を指摘されるよりも褒められる方が嬉しいのである。
古代ローマとの比較、というのがまた絶妙である。古代ローマは世界史上、最大最強の国家のひとつであろう。ルシウスは、軍事力においても文化・文明のレベルにおいても、自分たちが最高であると信じてやまない、誇り高きローマ人である。それが2000年後の文明を見るのだから、驚いて当然であるが、それほど素晴らしい人たちが驚いてくれるのが、われわれ現代日本人にとってはたまらなく感じられるわけだ。
とはいえ、2000年も前の時代の人なのだから、文明レベルで劣っていて当たり前で、ローマ人が劣っていることにはならない。むしろ、日本の文明の利器を見て、少しでもそれをローマに持ち帰ろうとするルシウスの意欲は尊敬に値する。つまり、両者を比較して日本すげーとなっても、誰も傷つかない。そのあたりがうまいと思うのだ。
作者は日本人だが、海外生活が長い。彼女の夫はイタリア人であり、歴史の研究者であり、特に古代ローマには詳しいそうで、こうした経歴によるのだろう、ローマ人が実に生き生きと描かれている。これも、成功を支える要因のひとつではないかと思う。

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