窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

文句なしの名作「アーティスト」

二度目の鑑賞である。リピーター割引で1000円。これって、同じ映画館でないとダメなのね。そうかも知れないけど、ちょっとセコイ。

ペピーとジョージの関係は?

ペピーにとってジョージは憧れのスターであり、同じ業界に身を置くようになっても、大先輩として深い敬愛の念を抱いている。ジョージにとっては、当初は自分のファンであるちょっと可愛い女の子、のちには、自分をスターの座から追いやった後輩であり、自分にちょっかいをかけてくることに戸惑っている……というような関係であって、いわゆる男と女の間柄ではなく、そうなることを互いに望んでいるわけではない。

と思っていたのだが、「cinemacafe.net」には「強く惹かれあう2人」「大人のためのラブストーリー」などとあって、え、そうでしたっけと「???」。

で、改めて考えてみると、上記の考えで間違いないと思うが、気になるシーンがある。

ジョージがペピーをエキストラに起用した理由

単にダンスの練習をしている姿を見て、面白そうだと思ったからでさほど深い意味はなかった。が、のちにペピーが大スターになったことから、ジョージは、女優としての才能の片鱗を感じたのかも知れない。

控室でクリフトンが邪魔しなければ、2人はキスしていた?

お礼を言いにペピーが控室に行くとジョージは不在。「Thank you」とメモを残すが、ジョージの上着がハンガーに罹っているのを見てついムラムラとしたペピーは、ジョージと抱き合っている妄想にふける。そこへジョージが戻ってきて、しばし見つめ合った二人は……

クリフの邪魔が入らなければ、キスしていたかも知れないが、ジョージとしては、可愛い子だったためムラムラと浮気心を出した程度に過ぎず、ペピーに惚れこんだわけではないだろう。ペピーとしては憧れの人に恥ずかしいところを見られて固まってしまっただけで、それを望んでいたわけではないだろう。

映画では二人が抱き合うシーンは何度かあるが、一度もキスしないのは、そういう関係ではないことをはっきりさせるためだろうと思われる。

火をつけて自殺を図った時、ペピーと共演した時のフィルム(だけ)を大切に胸に抱きしめていたのは何故?

自分に最も人気があった時代の最後の作品という理由であり、ペピーと共演したから大切にしていたわけではない。

クリフトンはどうやってペピーの運転手に就職したのか?

クリフトンが「雇ってくれ」とペピーに頼みに行ったのか?(クリフが気軽に頼みに行かれる相手ではなかったはず)たまたま運転手を募集していて、そこに応募したのか? それはあまりにでき過ぎている。

ペピーは、ジョージが思い出の品をオークションにかけた時も、人を使ってほとんどのものを買い取らせ自分のものとした。ジョージが手放したものは全部自分が引き取るつもりだったのだ。運転手も。

ジョージがクリフを辞めさせたことをどうやって知ったかだが、あのような状態ではいつまでも雇っていられるわけはないから、困ったことがあったら相談にくるようにあらかじめクリフに言い含めていたのかも知れない。

ラスト、ペピーが「名案があるの」と言って二人でダンスを踊るが、どの辺が「名案」なのか?

トーキー映画に出演を拒んでいたのはジョージの方であり、決裂してからは会社も快く思ってはいなかっただろうが、会社を説得するよりジョージを説得する方が難易度は高いはずだ。実際、ペピーの誘いも当初は断わっている。そのジョージがペピーの提案を受け入れた理由は?

ジョージが頑なにトーキーを拒んでいたのは、彼は演技は抜群だが実は声に自信がなかったのではないか。妙に甲高いか、ガラガラ声かは、わからないけど。当然、ボイストレーニングも受けていないわけだし。だから声を出すのが厭だった。ペピーの提案は、一緒にダンスを踊ろう、そうすれば、しゃべらなくてもいい、というものだったのではないか。タップダンスだから、サイレント映画では無理。つまり、トーキーでやる意味がある。そして観客にも受ける、と。

ベレニス・ベジョの演技が見事

当初は、いかにも素人という風体で、主役を張り始めた頃は、急に人気が出ていい気になってる感を、のちにはスターの貫録を身につけてくるなど、雰囲気がどんどん変わっていくさまを見事に演じていた。物語の最初の方でジョージの楽屋に忍び込んだペピーが、ジョージの上着を使って一人二役で抱き合っている様子を演じる場面は、本当に二人で抱き合っているかのようだった(腰に回した右手が、いやらしく腰を撫でさするところがもうね)。

オスカーの主演女優賞にノミネートされていたと思い込んでいたが、確認したらノミネートされていたのは助演女優賞だった。自分としては、主演女優賞はベレニス・ベジョが取るべきだったと確信してやまない。