パニック&サスペンス映画ではなかった。「フライト」

題名フライト(原題:Flight)
監督ロバート・ゼメキス
出演デンゼル・ワシントン(ウィップ、事故機の機長)、ナディーン・ベラスケス(カテリーナ・マルケス、ウィップの恋人)、ケリー・ライリー(ニコール、ウィップの新しい恋人・薬物依存症)、ブルース・グリーンウッド(チャーリー、組合代表でウィップの旧友)、ジョン・グッドマン(ハーリン・メイズ、薬物の専門家?)、ジェームズ・バッジ・デール(ウィップとニコールが入院先で出会った患者)、ドン・チードル(弁護士)、メリッサ・レオ(エレン、調査班リーダー)、他
公式サイト映画「フライト」オフィシャルサイト
制作USA(2013年3月1日日本公開)
劇場チネチッタ
たいていの人が想像することと少し違った方向へ話が展開していく(いや、「たいていの人」がそうだろうというのは、それこそ勝手な想像なのだが)。意図的なのかどうかわからないが、予告編もミスリードさせられる。そのため、以下は畳んでおく。

粗筋

ウィップの操縦する飛行機は離陸直後に激しい乱気流に巻き込まれるが、難なく切り抜ける。が、その後機体にトラブルが起き、操作不能状態に。墜落寸前、すさまじい技術で軟着陸体制に入り、乗客乗員102名のうち死亡は6名だったが、一歩間違えば全員が死亡する事故だった。ウィップは奇跡の生還を果たしたパイロットとして賞賛を浴びる。

しかしウィップは、運転当日も寝不足と二日酔い、それどころか頭をはっきりさせるためにコカインをやり、その上さらに飛行中もウォッカ割のジュースを飲み続けるひどいドランカーだった。

6名の死亡者がいるから、誰かが責任を取る必要がある。航空会社は機体メーカーのせいにしたい。機体メーカーは航空会社の整備不良のせいにしたい。そこへ、ウィップの血液検査の結果大量のアルコールが検出されたという知らせが届く……

雑感

始まった途端に画面におっぱいが大映しになる。え、本物? オレなんか見間違えてる? と思って見ていると起き上ってぷるんぷるんさせながら歩き出す。確かにおっぱいである。いや、下半身も何もつけていない。光の加減ではっきりとは見えず、おかげで無粋な「ぼかし」は入らずに済んだけど、冒頭からいきなりキャッチー。

フライトの前の晩は飲まない内規になっているみたいだが、そこをチョット……というのはまあ、わかる。それで二日酔いになってしまうのは、パイロットという職業を考えるとどうかとは思うが、普通の会社員なら思い当たる人は多いだろう(まあ、自分もそういうことはある)。同じ会社のフライト・アテンダントとむふふ(はーと)な夜を過ごすのも、お互い独身なら悪いわけではないし、それで(張り切り過ぎて?)睡眠不足というのも、まあわからぬではない。

が、眠気を覚まそうとヤクを使う時点で普通ではない。事故後、さすがに酒をやめようと思い自宅にある酒をすべて処分するのだが(あっちにもこっちにも酒が貯蔵してあって驚くばかりだが)、結局やめられずに飲み出すあたりでさすがにおかしいと感じる。ウォッカを呷りながら自動車を運転する様子を見て、ああこの人は単なる呑兵衛ではなく、完全な依存症なんだとわかる。そこから先は、依存症患者の振る舞いに視聴者は付き合わされることになる(単に酒がやめられないというだけでなく、自分が依存症であることを認められない悲劇も含めて)。

酒のことを表に出したくない会社側と、辣腕の弁護士によって、血液検査の結果は葬られる。残るは、機内にあったウォッカの空き瓶は誰が飲んだのかという点だけ。調査委員会は、テリーナ(事故の犠牲者の一人だが最後まで子供の安全を確保しようと奮闘していた)ではないかと見当をつけ、ウィップの見解を尋ねる。ここで「そうだと思う」と答えていれば、ウィップの罪は不問になり、英雄として末代まで讃えられたであろう。が、……ウィップは「彼女ではない。飲んだのは私だ」と答えてしまう。

思うに、何よりもこの回答が英雄だったなと思う。もし自分だったら、とても正直には言えない。たとえ情を交わした相手だったとしても、今は死んでいるのだ。生きている人が平和で丸く収まるなら、死人のせいにしてしまうのではないか。でもウィップは違った。正直に答えたのだ。英雄だから。

ところで、10人の経験豊かなパイロットに事故の様子を見せ、もしあなたが操縦していたら安全を確保できたかと尋ねたら、全員が、墜落して乗客乗員全員死亡でしょう、と答えたという。そのくらいヤバイ状況に陥りながら、ウィップは犠牲者をわずか6人にとどめた。たとえアルコールが残っていたとしても、そうした技術をちゃんと発揮できたわけで、たとえそれがルール違反だったとしても、罪に問うのはおかしい気がする。

ただ、大けがした人や亡くなられた人の家族は、もし飲んでいなければ犠牲者はもっと少なく済んだのではないか、という考えを捨てられまい。だからやはり責任を追及するしかないのか。

実際には、仮にウィップが素面では凄腕のパイロットだとしても、この状態でパフォーマンスを発揮することはあり得ないと思うが。

配役

狙ったわけではないのだが、これで「アルゴ」「人生の特等席」と3作連続してジョン・グッドマンが出演している。一昨年も「アーティスト」「ものすごくうるさくて、ありえないほど近い」に出演しているし、アカデミー賞に絡むには彼の出演が欠かせない?

ケリー・ライリーは「シャーロック・ホームズ」でメアリー・モースタンを演じた人。記憶にない。ジェームズ・バッジ・デールは「シェイム」で主人公の上司役だった人。「ディパーテッド」にも出演しているが記憶にない。

ドン・チードルは、顔に見覚えはあるのだが、出演作は「ラッシュアワー2」「再会の街で」……印象にない。

Academy Award

第85回アカデミー賞で主演男優賞、脚本賞にノミネートされる(受賞はならず)。

リンク