窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

2回目もちゃんと笑えてよかった。「そして父になる」

題名そして父になる
劇場TOHOシネマズ ららぽーと横浜

雑感(ネタばれあり)

karigariさんが「そして父になる」感想―親が子を選ぶのか子が親を選ぶのか(ときどき休みます、2013/09/27)で

福山さんだけは映画の中で何も食べない。

と書かれていて、実に鋭いところを見ているものだなあと感じたのだが、二度目は本当にそうだったか、その点を注意して見た。

結果、この作品では食事のシーンはかなり多いが(家庭内の出来事がテーマなので、自然にそうなるだろうが)、実際に食べているシーン(食べ物を口に入れているシーン)は非常に少ない。たとえば初めの方で、残業して帰宅した良多に、みどりがうどんを作る場面がある。みどりがネギを刻むシーンはあって、これから良多はうどんを食べるのだろうと誰もが自然に想像するが、実際に食べるところは映さない。慶多が小学校に合格した時、ケーキが出てきて、ロウソクを吹き消すシーンはあるが、肝心のケーキを頬張るシーンはない。良多が兄弟(恐らく兄)と両親の家を訪ねる場面で、のぶ子は寿司を取り、兄がそれをつまむが、この時は指でつまんだだけで口には入れていなかったはず。

食べているシーンは4回ある。1回目と2回目は、慶多と琉晴が初めて互いの家で泊まる時。慶多は餃子を、琉晴はすき焼きの肉を実際に口に入れる。この時、大人たちも一緒に食卓を囲んでいるが、口に入れるところまでは映らない。

3回目は子供を交換する直前、良多が慶多に「ミッションだ」と説明するシーン。野々宮家の夕食で、この時良多は実際に味噌汁を口にする。

4回目は琉晴が野々宮家に来て間もない頃、恐らく昼食にみどりと琉晴がうどん(か何か)を食べる場面。この時はみどりも実際にうどんを口に入れたと思うが……今改めて思い出すと、ちょっと確信がない。口には入れていないかも知れない。

食べ物を口に入れてしまうとセリフが喋れないから、実際に食べているところまでは撮らない、というのはごく自然なことのようにも思えるが、厳密な意図があってやっていることのようにも思える。

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みどりが良多に、「取り違えがわかった時、あなた最初になんて言ったか覚えている?」「君のせいだと言った。あの時は悪かった」「そうじゃない! あなたは『やっぱり』って言ったの。『やっぱりそうだったのか』って。私、一生忘れない!」と怒るシーンがある。

僕は良多が、「だからあんな田舎の産院なんかやめろといったんだ!」と言い放つシーンは覚えていて、ひどいことを言う奴だなーと思ったのだが、「やっぱり」と言ったかどうかは覚えていなかった。その点も注意していたのだが、これは確かにみどりの言う通り、「やっぱりそうだったのか」と言っていた。

これまで何かと慶多に物足りなく感じていたこととリンクするセリフで、みどりはその意味を即座に理解し、腹を立て、傷ついていたのだろう。それを聞き逃したということは、僕も良多と同類であり、軽蔑されてしかるべきか?

以前には斎木に何か言われても「なんであんな電器屋ごときに偉そうに言われなきゃならないんだ!」と腹を立てるだけだった良多が、その後「時間をかければいいってもんじゃないでしょう」「何いうてんねん。子育ては時間やで、時間」「僕にしかできない仕事があるんですよ」「父親かて、換えの利かない仕事とちゃうんか」というやり取りでは、まだ多少傲慢さが見て取れるものの、斎木の言葉を一応受け止めているし、さらに凧揚げのシーンでは、「僕の父親は子供と一緒に凧を揚げるような人ではなかったんですよ……」「そんなことまで真似せんでええんとちゃう?」などと、わざわざ父親の話を持ち出し、斎木に救いを求めているようにも見える。

このように良多は後半ではがらりと変わるのだが、そのきっかけはどこだったかと考えると、みどりが上記の指摘をしてからではなかったか。みどりの言うことを受け止め、その意見を聞き入れるというのは良多にとって初めてだったのではないかと思う。良多は、父になると同時に「夫」にもなったのだ。

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斎木雄大はいい人なのだが確かに物足りない面も多く、日常的には完全にゆかりの尻に敷かれている様子。

「そんな……! 犬や猫の子じゃあるまいし」「犬や猫だって無理よ」「そうですよ! 犬や猫だって無理ですよ!」

病院の弁護士から「もう4回目ですし、そろそろ話を先に進めては」と言われ、
「そうですね、もう4回目ですしね」
「4回目だとか何回目だとか、そんなの関係ないじゃないですか。4回目でこうするとかマニュアルでもあるんですか?」
「そ、そうですよ! 4回目だとか関係ないですよ。うん」

こうしたやりとりは(リリー・フランキーの絶妙な芸もあって)笑えたが、しかし良多が「慶多と琉晴、二人とも引き取る」と言い出した時は、一切ゆかりの顔色を気にすることなく良多に怒りをぶつけた。彼の中では、妻の顔色を気にしながら決める部分と、そんなこととは関係なく自分で判断し決める部分がはっきり区別されているように思う。その部分が、ゆかりが雄大を尊敬し、信頼している部分でもあるのだろう。

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真木よう子のウインクは魅力的。男の子だったら絶対に虜になるのではないか。あれは反則です。

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