窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

ようやく筋がわかった「マイヤーリング」

題名マイヤーリング(2回目)
劇場新宿シネマカリテ

内容

  1. 1881年、ウィーン。オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフは、その身分と資産が周囲から羨望の的であったが、友人の新聞記者は政治犯として警察につかまり、自分は好きでもない女と結婚しなければならないなど、自由にならない運命に苛立っていた。7年後の5月10日(結婚記念日)、パーティーの場で17歳の可憐な少女に目を奪われる。それがマリーだった。
  2. ルドルフはマリーを口説き、舞い上がったマリーと密会を重ねる。が、親の許しを得ずに外出を続けるマリーに、ふしだらな娘に育ったと嘆いた母親は6ヶ月、親戚の家にマリーを預けてしまう。マリーに会えなくなったルドルフは荒れるが、6ヶ月後、戻ってきたマリーはすぐにルドルフに会いに行き、二人は結ばれる。
  3. ルドルフはマリーとの愛を成就させるべく、法王に離婚の申請をするが、許可されず、父の怒りを買い、マリーとすみやかに別れることを厳命される。さもなければマリーを強制的に尼にさせると。絶望にうちひしがれたルドルフは、1889年5月30日、マリーを誘ってマイヤーリングに赴き、マリーを撃ち殺して自らの命を絶つ。

全体が三部に分かれているので、25分ずつ三夜にわたって放映されたのかと思ったが、そうではなく、1957年2月24日の一日だけの放映のようである(考えてみたら、生放送だから、三回に分けてというのも大変な話である。幕間は、出演者の休憩タイムか)。

雑感

なるほど、こういう話だったか。

いくつかの紹介記事では、どれもオードリー・ヘプバーン主演作品となっている。知名度からそのように言われるのは仕方のないところだが、本作の主役はメル・ファーラーだ。

マリーとルドルフの恋愛に関しては、何のひねりもなく進んでいく。マリーがどうしてルドルフに好意を持つようになったのか、ルドルフに妻子がいることをどう思ったか、また酒浸りの毎日であり、複数の女性と浮名を流していることをどう感じているのか。そういった点に関する描写が全くない。

主題は、皇太子ルドルフの父・皇帝に対する葛藤だろう。冒頭で、父との考えの違いが既に明らかになっていたが、友人は捕まり、それを阻止することができない。望まない結婚も逆らえない。彼にできることは呑んだくれて浮気を繰り返すことだけ。

そんな彼がマリーに出会って変わった。最初は遠ざけられると何もせず不貞腐れるだけだったが、果敢にも再び会いに来てくれたマリーを見て、恐らくは初めて、自分の意見を主張する。もっともそれは全く聞き入れられずに撥ねつけられるのだが、最後は人生を賭けて抵抗する……

メル・ファーラーの苛立ちと無力感が伝わってくるようで、この対立の図式は実にうまく描かれていた。本当は政治的にもっと複雑であったようだが、話をシンプルにうまくまとめている。なんというか、ルドルフにしても、もう少しやりようがあるだろうという気がするし、父親を説得する場面も、何の作戦も立てずぶつかるだけでは、砕け散るに決まっているじゃないかと思うが、そのあたり、苦労知らずのボンボンでもあるのだろう。そういうキャラもひっくるめて、メルがいい味を出していた。

マリーは17歳の設定だが、当時ヘプバーンは28歳。ちょっと演じるのに無理がありはしないか。彼女が演じるならマリーの設定を挙げてもよかったが、当時、28歳の令嬢が独身というのも不自然だし、そもそもマリーの、無垢といえば無垢、考えなしといえば考えなし、ワタシ難しいこと何もワカリマセーン的な態度が通じるのも17歳の設定であればこそで、28歳であれば大人しく無理心中に付き合ったりはしないだろう。ドラマ自体が成り立たなくなるわけで、つまり遠まわしに言えば、ヘプバーンはこの役に適していなかったのではないかと思う。

ちなみに死んだときルドルフは31歳、演じたメル・ファーラーは39歳だった。

史実

この話は、史実のマイヤーリング事件にかなり忠実である。ルドルフは実在の人物で、1881年に結婚するも夫婦仲は悪く、結婚前も結婚後も複数の女性と浮名を流していた。1888年に外交官の娘であるマリーと知り合う。仲介したのはいとこのラリッシュ伯爵夫人で、交換条件は、皇太子妃のための舞踏会に招待してもらうこと。二人の密会は周囲に知られることになり、マリーはトリエステに幽閉されるが、マリーがそこから戻ってくると、ルドルフは離婚を教皇に申し出る……

ただし、ルドルフがマリーのことをどう思っていたのかは不明。彼が関係を持っていた女性の中にミッツィ・カスパルがいて、どうやら本命は彼女だったらしい。1888年の夏にミッツィに心中を持ちかけ断わられたとか、1889年にはマリーとの仲は冷めていたとかいう説もあるようだ。

その他

  • ルドルフがマリーに送った指輪に刻まれていた J-I-L-U-D は Joined in Love undo death の頭文字。

今日の英語

  1. Please go away.(離れて)←マリーがパーティーで男に絡まれて
  2. I can't see my own father.(実の父なのに)←ルドルフ皇太子のつぶやき