大河ドラマに何を期待するのかというと、事象や出来事の「理由づけ」だと思う。
時代劇には、史実と大きくかけ離れた出来事を描くものがある。江戸幕府は鎖国をしなかったとか*1、徳川家光は女だったとか*2、第二次世界大戦は起きなかったとか*3いう小説・漫画はいろいろある。このタイプの物語は、史実とは異なる出来事が作中に起き、それによって私たちの知っている歴史がどのように変わっていったのか、「出来事」そのものを楽しむものだと思う。
「銭形平次」や「大江戸捜査網」など、架空の人物による架空の事件を扱った時代劇は山ほどある。これらは過去のある時代を舞台にしているだけで、普通の創作ドラマと変わらない。歴史を変えるような大事件も起きない。「鬼平犯科帳」や「水戸黄門」は、主人公は一応実在の人物だが、ドラマで描かれる事件は架空の話なので、同姓同名の(架空の)人物だと考えた方がいいかも知れない。
太河ドラマのような、実在の人物による実在の事件をドラマ仕立てにしたものを、上記と区別して何と呼ぶか、よく知らない。「歴史ドラマ」でいいのだろうか。大河ドラマだけでなく、同傾向のテレビドラマは民放各局にも、また小説、映画、漫画、舞台などにも多い。こうしたドラマの魅力はどこにあるか。
いつ、誰が、何をしたか、はわかりやすい。何百年も前のことであっても、著名人であれば、何月何日に誰と会っていた、ということがはっきりとわかっていても不思議はない。それは、客観的事実だからであり、記録が残るからである。しかし、なぜそうしたのか、は内面のことであるため、普通はわからない。本人が日記なり書簡なりに書き残してくれればいいが、たとえそうした記録があったところで、それが本心である保証はない。
そこに、作家としての創作の余地が生まれる。いくつかの「事実」に合致する、合理的で納得のいく「解釈」を示す、それが物語の面白さだと思う。多少の細かい点が史実から離れても良い。結果的に、新しい物の見方、新しい人物像を示してくれたら、それに説得力が持たせられていれば、作品としての価値があるといえる。
平将門といえば、朝廷に逆らって新王を称し、独立国を起こそうとして滅ぼされた歴史上の悪人である。しかし1976年の「風と雲と虹と」では、圧政に耐えかねた関東の民衆の代表として、政治を改革しようとした救世主であるように描かれ、将門の評価が一変することになる。将門の所信表明演説。
「まず坂東の地があり、そして、そこに働く民人たちがいた。都におおやけができたのは、それからずーっとあとのことなんだ。今、坂東は自然に戻った。ここには、律もなく、令もない。みんな、第一歩から始めてみようではないか」
一昨年の「平清盛」でも、悪役として描かれることの多い清盛を魅力的に描き、武家政治を始めようとした先駆的存在であり、のちの源頼朝による幕府も清盛の存在なくしてはあり得なかった、とした。不幸な出来事により本作は開始直後からバッシングの嵐を受け、正当な評価を受けることなく終わってしまった感があるが。
明智光秀は、なぜ本能寺の変を起こしたのか。豊臣秀吉は、なぜ石田光成を偏重するのか。いろいろな解釈が成り立つと思うし、どういう理由でもいいのだが、それが腑に落ちれば、それが歴史ドラマの面白さだと思う。だから「本ドラマでは、こういう理由によるものだと考えることにする」ということを(ナレーションやセリフでの説明ではなく)はっきりとわかるようにドラマで示してほしい。
「軍師官兵衛」において、秀吉が三成を重用するのは、どうやら「有能だけど、有能過ぎないから」ということらしい。官兵衛を遠ざけているのは「有能過ぎるから」ということだろう。ただ、いくら官兵衛と対比させているとはいえ、三成があまり賢くないので、こんなのに政権を任せて大丈夫なのか? と心配になるし、おねからは「福島正則や加藤清正をもっと気にかけてあげなされ」と言われて秀吉が生返事をする場面があったが、福島正則や加藤清正が顔見せだけで全然ドラマに絡んでこないため、彼らを気にかけるべきなのか、そうでないのか、視聴者には判断ができない。要は、説明に説得力が欠けるのだ。
今年の大河は「ダイジェスト大河」などと揶揄されているが、ここの部分を省略してしまっては、ドラマにする意味がないのではないか。
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