窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

「カムカムエヴリバディ」(29):安子の圧巻の英語

第六週「1948」(木)

放送日

  • 2021年12月9日

概要

勇は頑張って経営計画を提出するが没になる。美都里は寝床でひたすら稔の写真を眺めて暮らす。るいは安子と「カムカム英語」を聞くが、美都里が嫌がっている話をし、なんで自分は英語を勉強しないといけないのか尋ねるが安子は答えられない。

おはぎを売り歩くが売れない。今日は12月24日、進駐軍の人たちがお菓子を(無料で)配っているからだ。そんな矢先に安子はローズウッドとばったり会う。話したいことがあるというローズウッドに、仕事中だ、まだたくさん売れ残っているのだと断わる。が、彼は、それを全部自分が買うと言い、安子を強引に事務所へ連れていく。

安子がなぜ高い英語力を持っているの疑問に思い、理由を訊きたかったようだ。安子はカムカム英語を毎日聞いていると答えるが、それだけでそこまでの英語は身に付かないだろうとローズウッドは言う。他に理由があるのではと。安子は稔のことを話し出す。彼に言われて英語の勉強を始めた。英語の勉強をすることは稔を想うことだった。が、稔は出征し、帰ってこなかった。安子は話しながら激昂し出す。なぜ、私は、夫が帰ってこないのに、毎日英語の勉強をしているのか? なぜ? 教えてください――

ローズウッドは、もう少し付き合ってくださいと言って安子を別の部屋に連れていく。扉をあけるとそこはクリスマスパーティーの真っ最中だった。

今日のるいと安子

「お母さん、なんで私はカムカム英語を聞きよるん?」

今日の安子とローズウッド(その1)

「Thank you for the other day.」
「It was my pleasure.」
「Glad to see you again.」
「えーと、Likewise.」
likewiseと出てくるところがおしゃれ。

今日の安子とローズウッド(その2)

「For me, to study English was to think of him. But the war destroyed everything. We got married about a month before he left for the front....」
「And I waited. I waited, and waited and waited for him to come home. But it was all in vain....」
「Why am I still studying English? He's not here. He will never come back. But I continue learning English every day. WHY!?」

雑感

とにかく安子が思いの丈を英語で吐露するシーンが圧巻。それがすべて。これまで安子は、どんなにつらいことがあっても、人前で泣かず、愚痴を言わず、健気に振舞ってきた。本心を人に伝えることがなかった。それが今、初めて吐き出されたのだ。英語で。

安子の英語力

安子が英語の勉強を始めたのは1939年と思われ、多少の中断はあっても1948年の現在まで約10年、真面目にラジオ講座を聞き続けていたので、相当なレベルにいるとは思われる。昨日の花屋の店先での通訳は、初めての英会話であれだけできれば立派なものだが、英語自体はたいして難しい表現も単語もなかった。あの程度はできて不思議はない。

しかし、今日ローズウッドに向かって話した内容は、かなり高度な表現を含んでいる。それに、destoryとかin vainとか、ラジオ講座では取り上げることはないだろうと思われる単語(熟語)もいくつかあった。

これは恐らく、ラジオ講座とは別に、稔からもらった英語の辞書を、夜な夜な開いて、出てくる英単語や例文を読み、暗記する練習を続けていたのではないかと思われる。また、稔が死んで以来、自分の気持ちを英語で呟くということも日々やっていたのではないか。とにかくどこかで吐き出さなければ押し潰されてしまう。が、日本語で呟いてうっかり誰かに聞かれたらいろいろと問題が生じる。英語なら周囲の人は誰もわからないから、勉強していましたで済む。

話している途中で安子の英語がどんどん流暢になっていくのは、これまで何十回も呟いてきたことだったからではないか。

ところで、「出征する」を安子はleave for the frontと表現した。そんな言い方があるのかと思って調べたら、frontには確かに「前線、戦地」の意味がある。「出征する」ならgo to the warあるいはleave for the warだろうが、わざわざ「最前線に送られた」と表現したのだ。字幕で「出征した」と出たが、この日本語訳は適切ではなかったのではないか。

その他

  • るいに「なぜ英語を勉強するのか」と尋ねられたのは、安子にとって痛いところを突かれたということだと思うが、ここは、お父さんは雉真繊維を海外と取引できるようにしたいと思って英語を勉強していたのだと、あるいはいつもと同じ、ひなたの道の話をしてあげてほしかった。
  • 一度会っただけのローズウッドに安子がのこのこついていったことを批判する人もいたが、商売道具を取り上げられてはついていくしかなかっただろう。そもそも当時の日本人が、米兵の言うことに「逆らう」という選択肢があったのだろうか?
  • ローズウッドの事務所の窓は明るく光っていて、午後の日差しが差し込んでいたように思われる。が、パーティー会場では、参加者は肉を食べ、酒を飲んでいた。今はいったい何時なのか? 恐らくクリスマスということで昼からずっとパーティを続けているということなのだろう。
  • ローズウッドが安子に金を払うシーンがなかったが、安子はちゃんと払ってもらっただろうか?

(2021/12/20 記)


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