題名
- 「光る君へ」第46話「刀伊の入寇」
放送日
- 2024年12月1日
登場人物
概要
まひろは念願の旅に出て、亡き夫が働いていた大宰府に到着。そこでかつて越前で別れた周明と再会し、失踪した真実を打ち明けられる。その後、通訳として働く周明の案内で、政庁を訪ねるまひろ。すると稽古中の武者たちの中に、双寿丸を発見する。さらに大宰権帥の隆家に、道長からまひろに対するある指示を受けたと告げられる。そんな中、国を揺るがす有事が……。(NHKオンデマンドより)
今日の赤染衛門と倫子
「殿の栄華の物語を書いてほしいと申したと思うが……」
「そのつもりで書きました」
「でもこれ……宇多の帝から始まっているわ。殿が生まれるよりはるかに昔だけど……」
「お言葉ながら藤原を描くなら、大化の改新から書きたいくらいにございます。とはいえ、それでは太閤様の御代まで私が生きている間に書ききれないと存じまして宇多の帝からにいたしました」
「殿が生まれた時は村上の帝のときゆえ……そこからでよいのではないかしら?」
「『枕草子』が亡き皇后定子さまの明るく朗かなお姿を描き、『源氏の物語』が人の世のあわれを大胆な物語にして描いたのなら、私がなすべきことは何かと考えますと! それは歴史の書であると考えました。仮名文字で書く史書はまだこの世にはございませぬ。歴史をきちんと押さえつつ、その中で太閤様の生い立ち、政の見事さとその栄華も極みを書き尽くせば、必ずや! のちの世までも読みつがれるものとなりましょう」
「……もう、衛門の好きにしてよいわ……」
感想
まさか本作で刀伊の入寇を描くとは思っていなかった。これまで合戦シーンはなかったが、最後の最後に大きな合戦をひとつ描くことにしたのか。そのためにまひろは大宰府まで行ったのか。
様々なことに傷つき、疲れ果て、京を出て大宰まで行ったが、それでも己が捨てられず悩むまひろを周明が暖かく包む。周明は妻帯ではなかった。架空の物語を重ねることになるが、この地で周明と二人、静かに余生を過ごすのもありか……と思った途端に、戦に巻き込まれ、矢が周明の胸に……。思えば第一話でまひろの母がまひろの目の前で殺されたのだった。そういう物語だった。
隆家がなんとも格好よかった。目の治療のためこの地へやってきた隆家だが、ここでいろいろと吹っ切れることがあったようだ。京都で出世争いをしていた頃の自分が情けないと言い、賄賂を受け取らず、民を守ることに力を尽くしているという。突然、外敵による襲撃を受けたという知らせにも、動揺しつつも、的確な命を出し、兵が集まらないと見るや、時間を稼ぐためと称し自ら先頭に出て敵に斬りつけ、遅れてやって来た兵たちにも謝意を示し、地元の兵に「敵が攻めてくるのは何処だと思うか」ときちんと意見を聞き、ここだと言われたところへ兵を集結させ、さらに「対馬の先には出てはならぬ」と攻防ラインをきちんと指示する。つまり、これは防衛戦争であり、領海を超えて攻め入ってはいけないということを示している。なんとも頼もしい大将だ。都のお偉方でこの場にいて、これ以上的確な采配を振るえる人がいるか。隆家がここにいて本当によかった。
それとは別に、実に興味深いシーンがあった。倫子の期待に応え、栄花物語を書き始めた赤染衛門は途中経過を倫子に報告。それを読んだ倫子は怪訝な顔をする。上記に引用したやり取りだ。実は赤染衛門は藤式部や清少納言、和泉式部に負けるとも劣らないやべー奴だった。熱弁を振るう衛門を見た倫子が、あっなんか地雷を踏んじゃったみたい……と言う顔をしたのがとてもよかった。
衛門が書き始めたのは「栄花物語」だろう。前回、倫子の依頼で道長の栄華を描くために書いたとするなら、随分スタートの時代がずれているのではないかと、実は訝しく思っていたのだが、今回の衛門の言葉を聞いて思い当たるものがあった。それは、「幕末の物語を」と言われて関ヶ原から描き始めたみなもと太郎先生のことだ。この件では編集者ともずいぶんぶつかったらしいし、最初の掲載誌「月刊トム」はとっくになくなった。「風雲児たち」という作品は、通常の単行本の1.5倍のワイド版で20巻+34巻という大長編となったが、結局、いよいよ幕末というところでみなもと先生の寿命が尽きてしまった。
道長の栄華を描くのに、本来は大化の改新から書きたい、しかしそれでは自分の寿命が尽きてしまうかも知れない、と判断して宇多天皇からにしたのは、誠に慧眼といえよう。
本作は、女流文学(仮名文学)が花開いた時代でもあった。そこを見事に描いている。こんな大河ドラマはこれまでなかった。「武道大河」に対してこうした「文化大河」も本当は同じくらいあってよいはず。そういう意味では来年の大河も文化大河だ。既に撮影に入っており、本作の影響をどのくらい受けるかはわからないが、期待しよう。
今日のtwitter
#光る君へ 第46回。刀伊の入寇、迎え討つは笑っちゃうくらいカッコいい隆家!推しへの賛美や愛の物語でなくとも情熱を込め実直な歴史書を千年遺す赤染衛門にしびれた。道長のためにできることはすべて終わり気力も失せたまひろに再会した周明の抱きしめるような言葉からの突然の惨事。道長は元気出せ! pic.twitter.com/CCXzWJ3vxg
— KEI-CO (@keico) December 1, 2024