窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

中村朝佳ステキ!「あの娘、早くババアになればいいのに」

インディーズの登竜門とも呼ばれる「第7回 田辺・弁慶映画祭」(2013年)にてグランプリ賞と市民賞のW受賞を果たした。

題名あの娘、早くババアになればいいのに
監督頃安祐良
出演中村朝佳(蟹沢アンナ)、尾本貴史(平田、アンナの養父)、結(古西、書店員)、切田亮介(清水、アンナのクラブメート)、尾崎愛(アンナの母親)、他
公式サイト映画『あの娘、早くババアになればいいのに』公式サイト
制作日本(2014年6月7日公開)
時間70分
劇場テアトル新宿

内容

平田は、同級生の女性から突如赤ん坊を預けられてしまう。母親はその直後に死亡。仕方なくその子を育てることにしたが、平田は筋金入りのアイドルオタク。生身の女性が苦手で付き合ったこともない。そんな彼に育てられたアンナは、順調にアイドルを目指し、父親と特訓を重ねていく。

高校生になったアンナには、真剣に彼女に恋する清水が出現。また、平田は古書店を営んでいるが、腰痛が悪化し業務に差支えが出るようになったため、新たに店員を募集したが、採用した古西は平田に好意を抱くようになる。この二人の出現で平田とアンナの親子関係にきしみが生じるようになり……

雑感

僕が観た時は客席に中村朝佳さんがきていて、帰る時に劇場の出口で挨拶をしていた。思い切って「写真に撮っていいですか?」と訊いたところ、気持ちよく「いいですよ」と応じてくださり、笑顔を見せてくれた。いっぺんで中村朝佳のファンになった。本作はマイナー作品だが、彼女は「苦役列車」や「クロユリ団地」などにも出演経験がある。きっとこれからブレイクするに違いない。応援しよう。

さて本作は、監督自らアイドルオタクと公言しており、アイドルとアイドルファン必見、などとアオられている。僕自身は、少なくとも今のアイドルには全然興味がないし知識もない。アイドルというのは結果的になるものであって目指すものなのか? などと呑気に思っている。だから、平田のいう「アイドルは万人に等しく愛情をふりまくものであり、特定の恋人をもってはいけない」「アイドルに性的な気持ちを抱いていはいけない」みたいなことは、言わんとすることはわからなくもないけど共感はできない。なにしろこちとら、中学生の時はアグネス・チャンが好きで好きでたまらなかったが、毎晩アグネスを抱きしめる夢ばかり見ていたし、高校生になって太田裕美が好きになると、毎日太田裕美とセックスすることばかり考えていたのだ(アクゲス・チャンさん、太田裕美さん、ごめんなさい。でも中高生の男子はそういうものだと思うです)。

それよりも、親子の成長物語を描いたものとして、普遍のテーマが込められていると思う。子供が小さいうちは親のことが一番好きで、一番尊敬していて、親の言うことがすべて正しいと思う。しかし成長して視野が広がり、交友関係が拡大するにつれて、親の言うことは本当に正しいのか? と疑問を感じるようになるのは自然である。

親にしてみたら、これまで自分の言うことをなんでも素直に聞いていたのに、だんだん言うことを聞かなくなり、反抗するようになると、「不良になった」「周囲から悪い影響を受けた」などと思いがちだが、それは子供の成長の証なのである。なんでも100%コントロールして自己満足に浸っていた時期は終わったということだ。親子双方に、親離れ・子離れの時期が近付いているのだ。

出演した役者さんは残念ながら誰一人知っている人はいなかったが、芸達者な方ばかりで、たいへんよくできた作品という印象である。面白かった。中村朝佳が、ふだんはただの高校生に見えるのに、アイドルの練習をしている時には本当のアイドルっぽく見えるのがスゴイと思った。

平田とアンナの関係

平田がヤンキー娘からアンナを預かるところから話が始まる。「あなたの子よ」「そんな……だって」「名前はアンナだから」とだけ言って去ろうとした直後に交通事故で死んでしまうため、平田としても自分が育てざるを得ないということになるのだが、平田とアンナは血が繋がっているのか? そうでないのか?

公式サイトでは、平田は「童貞」と明言されており、劇中でもアンナが古西に「お父さん、童貞だと思うよ」と告げるシーンがある。ただし劇中では明確にそうとわかるシーンはない。

仮に一回(か数回か)関係があったとしても、それから一年有余を経て突然現れた女が「あなたの子よ」と言ったら、ほとんどの男は「嘘だろ。あり得ない」と叫ぶのではないか。「安全日だって言ったじゃないか」とか「付き合っている男がいただろう、そいつの子じゃないのか」とか理由はさまざまだろうが、「あーはいはい、俺の子なのね」と素直に納得する人はいないと思う。だから、驚く平田の表情だけからは、一回もしていないのだから本当にあり得ないのかどうかは判断しかねる。

まあ平田の性格からして、血がつながっている(可能性がある)のであれば、アンナを平田姓にしただろうから、蟹沢姓のまま育ててきたということは、関係ないことの証左だろうか。ただ、もしそうだとするとアンナには父親が別にいるわけで、彼女が本当にアイドルになったとしたら、ちょいとやっかいなことになりそうだ。

主題歌

中村朝佳が歌っているそうだ。歌詞の一部を抜粋。

あーあの子がはやくオバさんになればいいのに
そしたらひとりじめできるのに

それは無理です(笑)。伊藤蘭をみよ、吉永小百合をみよ。本物のアイドルはいくつになっても独占なんてできないのだ。

その他

最後にゴダール監督が登場する。アンナに映画出演を熱望し、アンナもそれを受諾したように見えたのだが、監督は断わられたと受け取ったようだ。ここだけちょっとわからんやりとりだった。

トークショー

知らなかったのだが、僕が観た時は、終了後に頃安祐良監督、沖田修一氏、尾本貴史氏、結女史によるトークショーが企画されていた。だからこんなに混んでいたのか? 後ろの方の席だったため俳優さんの顔があまりはっきりわからなかったのは残念だったが、印象的だった。

  • 本作は自主映画である。自主映画というのは、費用を監督がすべて負担した(一部借金)らしい。劇場公開によって興行収入が監督の元に入り、モトが取れるといいが……
  • この4人は、全員日大芸術学部の卒業生らしい。日芸の卒業生で映画に関わって生活する人は意外に少ないらしく、日大の話で盛り上がっていた。
  • 頃安監督が自らアイドルオタクであることを告白。アイドル映画は一生にこの一本だけです、とのこと。
  • 会場から質問があればとのことだったので、最後に「平田とアンナは血のつながりはなかったのか?」と質問させていただいた。映画を観ている間は、どちらか観客の判断に委ねるという作りになっているような気がしたのだ。監督は「血はつながっていません。そういう前提で見てくださって構いません」と断言された。

配役

  • 切田亮介が顔つきといい喋り方といい甲本雅裕そっくりで、もしかして息子か? と思ったが、調べてみると甲本雅裕は独身だった。独身だからといって子供がいないことにはならないけど、どうやら関係ないみたい。単に影響を受けたということかな……