三輪ひとみが熱演。ダメ人間は最後までダメなのか。「捨てがたき人々」

題名捨てがたき人々
原作ジョージ秋山
監督榊英雄
出演大森南朋(狸穴勇介)、三輪ひとみ(岡部京子、勇介の子の母)、美保純(あかね、京子の叔母/居酒屋経営)、田口トモロヲ(丸吉社長)、内田慈(吉田和江、勇介の職場の同僚)、滝藤賢一(和江の夫)、佐藤蛾次郎(飲み屋で勇介に絡んだ客)、寺島進(何処に出てきた!?)、伊藤洋三郎(高橋、?)、諏訪太朗(?)、他
制作日本(2014年6月7日公開)
時間123分
劇場テアトル新宿

内容

冴えない中年男・狸穴勇介は、生きていくのが嫌になり、生まれた五島(長崎市)に戻り、有り金が尽きたら死のうと思っている。無職で、昼間から安酒を飲み、すれ違う女の子がミニスカートを穿いていれば太ももをガン見し、前にいる女の子がローライズ・ジーンズを穿いていればお尻を凝視する。人と話す時相手の目をちゃんと見られず、落ち着きなく視線を動かす。あるいは(相手が女性なら)胸の谷間を見る。キモい、あぶないオッサンである。

岡部京子は、生まれつき顔にある大きな痣がコンプレックスであったが、信仰を知って、他人が少しでも喜ぶ顔を見るのが自分の幸せだと強く考えるようになり、日々実践している。周囲が警戒する勇介に対しても親切に接していたが、そこに付け込まれ、レイプ同然に関係を強要されてしまう……。

雑感

大森南朋の演じた勇介という男は、見事に品性下劣であり、大森もインタビューで「こんな嫌な役をやったのは初めて」と言っていたほど。ただ最低男かというと案外そうでもなくて、京子と出会った時は無職だったが、京子と付き合うようになって、京子の口利きで地元の企業に就職。その後、職は変えるが10年にわたってずっと仕事は続けているようなので、立派なものである。「あんな仕事やってられるか!」といってあっさり辞め、京子に仕事をさせてゴロゴロしている可能性もあっただろうに。

実は、本作には品性下劣な人間が何人も登場する。京子も、京子の母も、あかねも、丸吉社長も、和江も、皆多かれ少なかれ人に知られたら後ろ指をさされるようなことをしている。そんな中で僕が一番腹が立ったのは、佐藤蛾次郎(の演じる酔客)だ。

勇介の母はどうやら五島で娼婦をしていたらしい。そして佐藤蛾次郎は客だったらしいのだ。勇介があかねの店に初めて飲みに来た時、あかねは五島は初めて? とかなんとかさりげなく客の素性を聞こうとする。勇介の返事は素っ気なく、あまり深入りするなということだと察したあかねは質問をやめるが、佐藤蛾次郎が彼に気付いて、「あれー、あんた○○さんとこの子だろう」となれなれしく近寄ってきて隣に座るのだ。「あんたのかあちゃんには世話になったんだよー。いひひ」などと話しかける佐藤蛾次郎に、勇介は頭から水をかけると、「人違いですよ」と言って店を出て行ってしまう。佐藤蛾次郎は、勇介が何を怒っているんだかわからない顔をして、あかねに「間違いない、あいつは○○っていうんだよ、あいつのかあちゃんは昔さ……」などと話をやめない。

どこの世界に、自分の母親が身体を売っていた時の常連客から、人前で大声でそのことを指摘され、下卑た顔で「世話になった」などと話しかけられて笑顔を向けられる男がいるか。そういう時は気づいても知らんふりをするのが節度というもの。どうしても話がしたければ、周囲に聞こえないように小さな声で話しかける、母親のかつての職業を連想させる言葉は一切発せず、お母さんの知り合いだよ、とだけ言う、その程度の気遣いをするのは当然の話だろう。それができない佐藤蛾次郎は誰よりもクズ野郎だと思うが、恐らく自分ではその自覚がない。それがなにより腹立たしい。京子もあかね和江も、も、自分がやっていることに対するうしろめたさはあるはずだから。

作品としては実に興味深かったが、率直に言えば少々間延びしていて退屈だった。丸吉社長に愛人がいること、勇介が社長夫人からいびられるエピソード、京子の前歴、和江の夫婦関係、それぞれ意味があるのはわかるが、盛り込み過ぎではないか。もう少し話を絞ってあと20分くらい短くしたらずっといい作品になったように思う。

その他

  • We'SNというお弁当屋のチェーン店は実際に長崎にあるようだ。
  • 女優が「熱演」したと書いた時は、それは大胆なヌードを披露したという意味である。

配役

  • 美保純は色気があった。美保純といえばかつて(ざっと35年くらい前)の「オナドル」だ。オナドルというのはオナニーアイドルの略で、男子がアレの際に思い浮かべる女性、という意味である。この言葉は美保純の登場とともに新たに作られた造語というか新語で、彼女のあとにこの言葉を継げる人はいなかった。一代名人みたいなものである。美人揃いの芸能界の中で、特別美人だったわけではないが、なにしろ色気たっぷりで、独特の立ち位置で抜群の人気があった。ちょうど今の壇蜜と似ている。
  • 美保純はその後演技派女優に転身し長らくその地位を保っているが、本作では久々にお色気役に挑戦したとのことである。たっぷりと濡れ場を演じている、といっても、残念ながら肌の露出はない。が、確かに色気があった。もう60を過ぎているのにあの色気は只者ではない。
  • 滝藤賢一がなぜ登場したか不思議。あの役はこれといった見せ場はなく、わざわざ滝藤である必要はなかったのではないか。
  • 寺島進が出ていたことをあとで知り、驚いている。どこにいたのか全くわからなかったのだ。彼ほどの役者を、どこにいたかわからないような役で使うのはもったいない。

劇場

テアトル新宿に来るのは3回目。「レンタネコ」を観たのが初めてで、次が「麦子さんと」。今回は、それ以来。