窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

こんなコミカルな作品だったとは。大いに笑った。「ウォルト・ディズニーの約束」

もう少し別の内容を想像していて、なんとなくためらっていたのだが、非常に面白かった。さっさと観ればよかった。

題名ウォルト・ディズニーの約束(Saving Mr. Banks)
監督ジョン・リー・ハンコック
出演■1961年/トム・ハンクスウォルト・ディズニー)、エマ・トンプソン(P.L.トラバース)、ポール・ジアマッティ(ラルフ、運転手)、メラニー・パクソン(ドリー、ウォルトの秘書)、キャシー・ベイカー(トミー、社長室長)、ブラッドリー・ウィットフォード(ドン・ダグラディ、脚本家)、ジェイソン・シュワルツマン(リチャード・シャーマン、作詞家)、B・J・ノヴァク(ロバート・シャーマン、作曲家/義足)、他
1906年/アニー・ローズ・バックリー(ギンティ、トラバースの幼少期)、コリン・ファレル(トラヴァース・ゴフ、銀行員/ギンティの父)、ルース・ウィルソン(マーガレット・ゴフ、ギンティの母)、レイチェル・グリフィス(エリー、マーガレットの姉)、他
公式サイトウォルト・ディズニーの約束 | ディズニー映画
制作USA、イギリス、オーストラリア(2014年3月27日公開)
時間125分
劇場TOHOシネマズ シャンテ

背景

P.L.トラバース(パメラ・リンドン・トラバース、本名はヘレン・リンドン・ゴフ)は英国の女流作家。1899年オーストラリアのクイーンズランド州生まれ。父はアイルランド人、母はスコットランド人。25歳の時に英国へ移住。

代表作は魔法使いの家庭教師を主人公にしたメアリー・ポピンズ・シリーズ。1934年から1988年にかけて8作が発表された。イギリスを代表する児童文学のひとつ。

1964年にディズニーによって実写映画化された「メリー・ポピンズ」では脚本監修を務めた。この作品はアカデミー賞の13部門でノミネートされ、主演女優賞、編集賞、作曲賞、歌曲賞、特殊視覚効果賞を受賞。がトラバース自身は気に入らず、ディズニーに映画化の権利を売り渡したことを生涯後悔していたと伝えられる。

1964年、ウォルト・ディズニー死去。65歳。まさにぎりぎりのタイミングだった。1996年死去。96歳。

内容紹介

ウォルト・ディズニーはメアリー・ポピンズの映画を作りたいと考え、P.L.トラバースをずっと口説き続けたが、彼女が交渉のテーブルにつくまでには20年かかった。ようやく重い腰をあげてロサンゼルスにきたものの、脚本に納得できなければサインしないといい、脚本の一語一句にまで文句をつけ、シャーマン兄弟の作る歌にもケチをつけ、と大騒ぎ。しかしウォルトはそんな彼女に終始誠実な態度で接し続け、一度は怒って帰国してしまった彼女を追いかけてイギリスまで行き、ようやく映画化の権利を得る……

映画作りのシーン(メインパート)と、トラバースの幼少期が交互に描かれ、メアリー・ポピンズに登場するミスター・バンクスは彼女の父親の象徴で、彼女にとっては譲れない神聖なものであることがわかる。

雑感

とにかくトラバースのエキセントリックな性格が面白い。周囲を振り回す彼女の台風ぶりと、彼女に振り回されて右往左往する周囲の人間(ウォルトを含む)をコメディとして楽しめばよいのだろう。

少し真面目にいうと、メアリー・ポピンズの映画化にはトラバースとディズニー側の溝がなかなか埋まらず、すりあわせには時間と手間がかかった。本作はそれをディズニー側から描いているため、フェアとは言い難い。

  • トラバースは新作を発表しておらず、昔の作品は売れず、映画化の権利を売らないことには住む家を手放さなければならないほど困窮している
  • 自分のことを「ミセス・トラバース」と呼ぶよう強要し、「パメラ」と呼ばれるとあからさまに不機嫌になるくせに、「ウォルトと呼んでくれ」と言われても頑なに「ミスター・ディズニー」と呼ぶ
  • 脚本が気に入らないと、原稿を窓から外に投げ捨てる

他にももろもろあるが、全体としてトラバースは頑固で偏屈で我儘で自分勝手で、イギリスの友人も手を焼いていた、という描写は、トラバースの身内が見たらどう思うか。トラバースは生涯独身だったようだから、2014年現在、身内と呼べる人がいるのかどうかはわからないが。

ただし、メアリー・ポピンズに登場するミスター・バンクスは彼女の最愛の父親の投影であり、商業的な理由でその設定を変えることは彼女にとって耐えがたいものである、という点をじっくり描いていたのはよかった。トラヴァース・ゴフは、傍目には仕事に身を入れずコロコロ転職し、酒飲みで、妻に苦労を押し付けてばかりいるが、幼いギンティがいかに父を愛し崇拝していたか、だから父の死が彼女の心にいかに影を落としたか、ここがていねいに描かれていたのは本作の白眉だろう。

映画化に消極的だったトラバースが、最終的にサインをした理由がわからなかった。彼女は納得のいく脚本ができなければサインしないと言い張っており、彼女の納得のいく脚本ができたわけではなかったのだが、ウォルトの熱意に押されたといった感じだろうか。そういうことで妥協をする性格ではないと思うが。

自分としては、「君の言うこともわかるが、より多くの子どもたちに理解してもらい、喜んでもらうためには、大胆な改変も必要だ」といって説得し、本人は気に入らないながらも、映画が世界中の子どもたちに熱狂的に受け入れられている様子を知ってディズニーのやり方に理解を示す……という成り行きを期待したのだが。

配役

日本語タイトル

ウォルト・ディズニーの約束」と「Saving Mr. Banks」じゃ全然違うじゃないか。なるほどこれは「Saving Mr. Banks」の映画なのか。そう思ってみると味わい深い。そりゃあ「ウォルト・ディズニーの約束」の方がキャッチーだろうけどさ……

日本語キャッチ

映画「メリー・ポピンズ」誕生秘話に基づく、感動の実話。――こういうキャッチは観に行こうというモチベーションを下げるだけだから、いい加減やめてほしい。なんでわざわざ「感動」を押し付けられなければいけないんだ。ただの「実話」でいいじゃないか。それに感動するかどうかは観た人の問題だ。

今日の英語

  1. "Don't leave me." "Never. I promise."(「ひとりにしないで」「決して。約束するよ」)
  2. トラバースが怒っている様子を周囲の人が表現する時に、angryを使わず常にupsetと言っていたので、へーと思った。

劇場

TOHOシネマズシャンテは、会社に近いため昨年はよく通ったが、今年は初めてだ。