あらすじ
1565年6月17日、三好義継・松永久通らが足利義輝を襲い、殺害(永禄の変)。
義輝の後継者の座をめぐって、弟の覚慶擁立派(三淵藤英、細川藤孝ら)と従兄弟の義栄擁立派(三好義継・松永久通ら)が争っており、三好らは覚慶をとらえて幽閉する。が、藤孝らは覚慶を大和から脱出させ、甲賀の和田惟政(義輝のお側衆だった)のもとで匿う。
義輝死すの知らせを聞いた光秀は、朝倉義景に断わりを入れて大和の多聞山城へ行き、松永久秀を問いただす。京から追い出すだけで殺しはしないと言ったではないか、と。クーデターを実行したのは松永の子であり、久秀は関わっていないが、久秀の意を受けて動いたと光秀は思っていたのだろう。久秀は、子らが暴走した、自分はここまでするつもりではなかったが、もはや自分には止める力がない、と言う。
松永久秀の元には朝倉義景からの手紙が届いていた。光秀が来たら、覚慶に会って、将軍の器かどうか確かめるように言ってくれとあった。もし器であれば、朝倉が身柄を引き受けてもいいと。光秀の旅費は朝倉が持つとも。
それを受けて光秀は甲賀まで覚慶に会いに行く。初対面の光秀に向って覚慶は、「わしは才能も人格も兄には及ばない」「ただ死にとうはない」などと話す。
関白近衛前久は、姉と慕う伊呂波太夫が東庵の家にいると聞いてわざわざ訪ねて来る。将軍を誰にするかは天皇陛下が決めるのだが、それに先立って関白から上奏しなければいけない。つまり誰にするか自分が決めなければならない。血のつながりから言えば弟の覚慶だろうが、三好一派からは義栄にしろと言われており、逆らうと大変な目に遭いそうだ。さて、どうすべきか。
伊呂波太夫は、別にどっちでもいいじゃないの、私らは武士じゃないんだから、誰がなったって、と答える。結局、義栄が征夷大将軍に任ぜられることになる……
ストーリー補足
ドラマでは義栄将軍がすぐに決まったように見えるが、足利義栄が将軍職に就いたのは1568年3月10日。三年近い空白期間があった。
そもそも桶狭間の後、光秀が越前で呑気に浪人暮らしをしている間に、斎藤義龍が死に、信長は近江の浅井長政と同盟を結んで市を嫁にやって体制強化をしている。
永禄の変のあと、覚慶は信長に上洛を呼びかけるも、信長は斎藤家との戦いを優先させ、1566年に中美濃を、1567年に斎藤龍興を敗走させて美濃を平定(稲葉山城の戦い)、美濃を岐阜と改称した。覚慶は1566年に越前の朝倉義景の元へ行き、上洛を要請するが、義景は上洛を意志を示さなかった。1968年、信長は義昭を奉じて上洛すべく準備を開始した……
雑感
大河ドラマの中盤までは致し方ないのだが、主人公が完全に狂言回しになっている。義輝、覚慶、三淵藤英、細川藤孝、松永久秀、あるいは朝倉義景、……よしあしや、好き嫌いはあれど、みな、「何者か」であるわけだ。が、光秀だけがその間を走り回るだけで、何者でもないのだ。しかし、予告編によれば、次週、信長から家臣になるよう誘われるようなので、ようやく動き出すか。
しかし、正直なのは光秀のいいところだが、正直過ぎるのが欠点である。朝倉義景が、覚慶が器であったかどうか、と光秀に尋ねたのは、本気で光秀の評価を聞きたかったわけではないだろう。「確かにひとかどの人物です」と言ってほしかったのだ。山崎吉家も、目でそれを促していたのに、「正直に申し上げてよろしゅうございますか、あのお方はいかがかと存じます」などとしゃべってしまう。ま、史実では結局覚慶の身柄を引き受けるんだけど、義栄将軍まで突然飛んでしまったから、それは省略されるかも知れない。
幼い頃近衛家にいた伊呂波太夫と近衛前久は兄弟のように育ったという。いくら同じ家にいても、身分が違うのだから、兄弟のようには育たないだろうと思うけど(伊呂波太夫はあくまで侍女またはそれ以下の端女(はしため))、まあそれはよい。伊呂波太夫は「武士がいなくなれば戦はこの世から消えてなくなる」と言うが、それは違うぞよ。武士というものが登場するはるか以前から戦はあったし、明治になって武士というものがこの世から消えても、依然として戦はあるのだ。この時代も、僧侶だって戦すんじゃん! なんなら武士より強いじゃん!
義輝は「アバン死」というまた新たな作劇を紡いだ。今週死ぬのはわかっていたが、冒頭でいきなり始まるとは思わなかった。しかし義輝、カッコええー。そして美しい。向井理のこれまで演じた中で最高の役なのではないかと思うし、また、これまで様々な人の演じた(そうなのか?)義輝の中で、今回が一番よかったのではないか?
さて、今回とってつけたように「路銀は朝倉で持つ」という言葉が出て来て、これはケチだった道三との対比だと話題になったが、なんでいまさら? の観を拭えない。今回より、前回の半年にわたる出張費は誰が持ったのか、まずそこからだろう。浪人暮らしの明智家がひねりだすのは大変だったはずだし。