人外の者の集まり「荒川アンダー ザ ブリッジ」

公開後2週間経ち、他の映画館では早くも一日2回上映とかになっているが、新宿ピカデリーはかなり混んでいた。売店でニノの体操服を売ってた。ちょっと萌えた。

題名荒川アンダー ザ ブリッジ
監督飯塚健
原作中村 光
出演■TVドラマからの登場:林遣都(リク・市ノ宮行)、桐谷美玲(ニノ)、小栗旬(村長)、城田優(シスター)、山田孝之(星・ミュージシャン)、片瀬那奈(マリア、サディスト美女・乳製品の管理)、安倍なつみ(P子、ドジっ子・家庭菜園)、平沼紀久(ビリー、タイハクオウム・米調達)、有坂来瞳(ジャクリーン、女王蜂・ビリーの恋人・マッサージ)、徳永えり(ステラ)、末岡拓人(鉄雄、兄)、益子雷翔(鉄郎、弟)、駿河太郎ラストサムライ、美容師)、手塚とおる(シロ、空き缶集め)、上川隆也(市ノ宮積、行の父親)
■本作初登場:浅野和之(高井照正、第一秘書)、井上和香(島崎、第二秘書)、高嶋政宏(高屋敷、国土交通大臣)、桐谷美玲(リクの母)、他
公式サイト『荒川アンダー ザ ブリッジ THE MOVIE』公式サイト
制作日本(2012年2月4日公開)
劇場新宿ピカデリー

雑感

いろいろと予想外であった。

ストーリーはTVドラマの続きになると思っていたので、そのためTVドラマ全編をあらかじめ見ておくという予習をして臨んだわけだが、なんと映画の前半はほとんどがTVドラマから抜き出したエピソードだった。つまり、映画もTVドラマ同様、リクとニノの出会いから始まり、いわばTVドラマのダイジェストになっていたのだ。

TVドラマを知らない人でも問題なくストーリーに入っていかれる、映画として完結しているという点では出色の方法だと思う。ただし、構成の仕方がTVドラマとは異なる。ドラマでは荒川での日常が淡々と描かれ、その中でリクが少しずつ人間性を取り戻す話になっていたが、ここでははじめからリクが不法占拠者を立ち退かせるために荒川にやってきたことが示され、立ち退かせるための努力をするもののうまくいかず、ついにミイラ取りがミイラになっていくという軸にそってまとめられている。ちょっと捉え方が違うため、ドラマをよく知っている人でも新鮮に見ることができるだろう。こういう点はうまいと思った。

リクとニノがじゃんけんをして勝った方が進む、というゲームをした時、負けてばかりのニノが、悔しがってジャミラになり、「うー、うー」と唸りながら地面を蹴飛ばすシーンなどは、ドラマでも見たシーンだけど、か、かわいい……とぐいぐい迫ってきた。「ぐいぐい」←鉄人兄弟の声で

一方、リクが荒川河川敷の住人を立ち退かせようと努力し、その結果どうなったか? 自称「金星人」のニノは金星に戻るのか? どうなのか? というあたりの展開がドラマにはなかった部分ということになるが、原作からも大きく乖離した映画オリジナルのストーリーになっていた。

原作からの乖離はそれはそれでいいと思うが、今回はとてもじゃないが褒められない。

素朴な疑問

冒頭で、川に落ちてニノに助けられたリクが寝かされていた枕には「2-3 仙石」と書いてあったように見えた。この「仙石」が荒川にくる前のニノの名前なのではないか?

エンドロール

ありがちなのは、役者の名前がただ単に表示されるもの。これだと誰が誰だかさっぱりわからない。多いのは、役柄名と役者名が並んで表示されるもの。これも、主要な登場人物の全員の名前を覚えているわけではないので、わかりにくい。ところがこの映画は、主要な人物はその人の顔を大写しにし、一緒に役柄名と役者名を表示していた。これだと顔と役者名がダイレクトに結びつくため、役者名を覚えやすい。他の作品もこの方法を見習ってほしいものだ。

ネタばれ注意

原作にない母親を登場させ、それがニノそっくり(演じた役者さんは同じ人)、というのはよい改変。ニノとしては表情の乏しい桐谷美玲が、明るく笑っているのは、見ていても楽しい。

ところで、リクは住人を立ち退かせるべく、一人一億払うという。みんなが興味を示さないと、さらに値段を釣り上げようとし、村長から「ここの連中は金じゃ動かねえぜ」と言われてしまうのだが、……そもそも地上げで大金が動くのは、土地の権利者に対して売却を依頼するからである。村長以下の連中は不法占拠であり、一切お金を払う必要はなく、説得して動かなければ腕ずくで動かせば済む話だ。そうはいっても気持ち良く動いてもらうために、多少の支度金を積んだとしても、一人一億などという法外な金額はあり得ない。

リクは、世の中にはお金で買えないものがあることがわかった、と盛んに言うが、そんなことは誰でもわかっていること(リク自身、父親からもらったというガラス玉を大切にしていることが、物語冒頭から描かれている)。具体的に「何が」お金で買えないとわかったのか、についての説明がない。そのため、とってつけたようなお題目を唱えているだけにしか聞こえず、説得力を欠く。リクは荒川の再開発を阻止することで、何を守ろうとしたのだろう?

村長が、実は政界の大立者で、総理大臣にタメ口を利き、大臣の首のすげかえすら可能な権力者であった……というのはあまりにも荒唐無稽。そもそも彼の年齢(って、いくつか知らないけど、小栗旬の年齢と考えれば29歳)で政治的権力を持っていること自体あり得ない(戦後の最年少大臣は小渕優子の34歳、最年少総理大臣は安倍晋三の52歳)。仮にある時期権力があったとしても、不断の努力を払わなければその力は維持できまい。隠遁生活を送っている人に逆らえないほど、現役の政治家はやわではないはずだ。彼の祖父が実は日本を動かす権力者で、家族に反発して家を出たが、今回だけ泣きついて動いてもらった、とかであればわかるのだが。

ニノが金星人である、という設定をどう回収するかは難しい。原作でもその回収のさせ方は疑問が残った。が、映画版の回収はさらにその斜め上をいく。要するに「いくらなんでもアレはないだろう」と言うしかないシロモノ。たとえば、回収せず観客にあれこれ想像させたまま終わる、というやり方もあったのではないか。そうすればパート2もあり得たし。

ただし、最後にリクとニノが結ばれたのはよい改変。原作を読み始めた時からずっとモヤモヤし続けてきたが、ようやくカタルシスが得られた。恋愛ドラマは、最後に二人が結ばれて終わりを迎えることが望ましい。「のだめカンタービレ」と違い、リクとニノの場合には別れが待っているわけだが。

TVドラマ編からずっと、苦虫をかみつぶしたような顔をしたままだった市ノ宮積(に扮する上川隆也)が、最後の最後に楽しそうに笑う。上川隆也の笑顔は本当にさわやかだ。これまでの表情とのギャップが大きく、なおさらインパクトがある。これもうまいと思った。