二年間にこのような作品が公開されていたなど全く記憶にないのだが、こんなすごい作品だったのか。見逃したのは残念だが、こうして劇場で観られて良かった。三軒茶屋シネマの最後だと思って観に来たわけで、そうでなければ知らないままだっただろう。劇場が引き合わせてくれたのだと思いたい。
題名 | のぼうの城 |
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原作 | 和田竜 |
監督 | 犬童一心、樋口真嗣 |
出演 | ■成田家/西村雅彦(成田氏長、成田家当主)、平泉成(成田泰季、氏長の叔父/城代家老)、野村萬斎(成田長親、氏長の従兄弟、泰季の息子)、谷川昭一朗(成田泰高、氏長の弟/氏長と共に小田原城に赴く)、鈴木保奈美(珠、氏長の妻)、榮倉奈々(甲斐姫、氏長の娘/武芸に秀でる)、他 ■忍城(おしじょう)の面々/佐藤浩市(正木丹波守利英、成田家家老)、山口智充(柴崎和泉守、成田家家老/丹波守の持つ朱槍をほしがっている)、成宮寛貴(酒巻靭負(ゆきえ)、成田家家老/自称・毘沙門天の化身)、他 ■領民/前田吟(たへえ)、中尾明慶(かぞう、たへえの息子)、尾野真千子(ちよ、かぞうの妻)、芦田愛菜(ちどり、かぞう・ちよの子)、夏八木勲(和尚)、他 ■豊臣側/上地雄輔(石田三成)、山田孝之(大谷吉継)、平岳大(長束正家、丹羽長秀の家臣)、市村正親(豊臣秀吉)、和田聰宏(山田帯刀、長束家の家臣/正木丹波守と槍勝負をする)、他 ■その他/中原丈雄(北条氏政)、ちすん(すが)、米原幸佑(権平)、黒田大輔(服部大五郎)、他 |
公式サイト | 映画「のぼうの城」オフィシャルサイト |
制作 | 日本(2012年11月2日公開) |
時間 | 145分 |
劇場 | 三軒茶屋シネマ(自由席) |
内容
1590年、秀吉は小田原攻めを行なうに当たり、石田光成に手柄を立てさせようと、2万の兵を与えて支城である忍城を攻めるように指示。さらに参謀として大谷吉継をつけた。忍城の兵力は500、領民を入れても3千、圧倒的な兵力の前に忍城は戦わずして開城すると思われた。
が、城代の長親は開戦を決意。最初の攻撃で地の利のある成田勢が勝利すると、石田光成は水攻めを決意。兵力差があるから確実に勝てると踏んだが、長親は城外の農民を操って堤防を決壊させ、この策をも潰す。結局、小田原城が落ちるまで落城せず、数ある支城の中で豊臣軍を撥ね返した唯一の城となり、坂東武者の強さが後世にまで語り継がれることになった。
雑感
忍城側の総大将は、父の死によって城代を引き継いだ長親だが、これまでの彼は、運動神経が鈍くて馬にも乗れず、武士としての生活を嫌って百姓と一緒に畑仕事をしようとするものの、役立たずで手伝われた方が迷惑なため、結局ひがな百姓が農作業を行なうのをただ眺めているのみ。でくのぼうを略してのぼう様と呼ばれていた。
この昼行燈がいざ事が起きるとすぐれた武功を挙げ、豊臣勢の大軍を撥ね返すという歴史に残る偉業を達成する。これは忠臣蔵にも通じるいわば鉄板な設定だが、本作では単に昼行燈なのではなく、いつも領民のことを考え、領民と仲良く付き合っており、そのため有事の際に領民が命賭けで協力してくれたことが成功を生んだのである。うまくできている。
ただし、これは長親のみが特別に人を惹きつける才があったわけではないと思う。最初の戦いが終わったあと、握り飯を配っているちどりに丹波守が「俺にもひとつくれ」と言うと、ちどりは「これは一所懸命働いたおじちゃんたちのために作ったのだ。馬に乗って楽をしていた人の分はない」といって断わる。武士に向かってこんなことを言ったら、普通は親が飛んできて土下座して謝るところだろうし、戦場という殺気立った場では殺されても文句の言えないところだが、丹波守は「えー、おじちゃんだって、少しは働いたんだよー」とおどけて言い、「そうなのか? じゃああげる」と言ってちどりの差し出した握り飯を申し訳なさそうにひとつ取り、それを見てたへえら領民がげらげら笑っていたのだから、成田の家臣団と領民はもともと心が通い合っていたと見るべきだろう。
しかし、水攻めの堤の築き方や水の流れ方、そして合戦の迫力ある様子を見るにつけ、これが戦国時代を描いたドラマなんだよなあ、と思う。水攻めの場面はリアル過ぎて、(東日本大震災の被害者に配慮して)一年も公開が延期されたほど。こうした場面が観られただけでも価値があったと思う。
現在の大河もちょうど同じ時代を描いているだけに、どうしても比較してしまう。もう少しなんとかならないものか、と。これらの迫力は、映画ならではとも言えるのだが、NHKの大河はテレビ番組としてはずば抜けて高い予算を組んでいるのだから、できないことはないと思うのだが。
残念だったのは、セリフがよく聞き取れなかったこと。俳優の滑舌が特別悪いというわけではないと思う。録音の仕方か、音響のバランスの問題ではと思うが、おかげで設定がよくわからず最初はイライラした。
劇場
7月20日をもって閉館である。あまり利用する機会がなかったが、最後に立ち会えて、そしてこのような名画に巡り合えてよかった。
実はこの映画館のすぐそばには「三軒茶屋中央劇場」が建っている。2013年2月14日を以て閉館したとのことだが。
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