窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

「カムカムエヴリバディ」(55):プロポーズ

第12週「1963-1964」(水)

放送日

  • 2022年1月19日

概要

コンテストの結果は、満場一致で大月錠一郎の優勝と決まった。トミーも悔しがることなく、むしろ満足気である。笹川光臣は、シングルレコードではもったいない、LPを作ろうとジョーに持ちかけ、笹川奈々は東京のジャズ界に新風が吹くとほほ笑む。

優勝を見届けたるいはそっと店を出るが、ジョーは目ざとく見つけ、るいのあとを追いかける。そして追いつくと、るいを抱きしめ「結婚しよう」と告げる。

竹村クリーニング店。ラジオでは磯村吟が、コンテストでジョーが優勝したことを語る。竹村夫妻も得意げだが、るいだけが心ここにあらず。ジョーは好きだが、店を辞めることはできないるいは、結婚を申し込まれたことをまだこの夫妻に話していないのだ。

そこへジョーがやってくる。お祝いの言葉を述べ、サインだと浮かれる夫妻に、ジョーが突然「サッチモちゃんをください」と切り出す。驚いたるいは、失礼だとジョーを咎める。自分はこの二人に拾ってもらい、これまでさんざん世話になってきた。簡単に店を辞めるわけにはいかないのだと。

それを聞いた二人は、店は一代限りでいいし、るいちゃんのようないい子が手伝ってくれたことを思い出話としてできたらそれでいいのだと言い、平助はその場に正座すると、ジョーに「娘をよろしくお願いします」と頭を下げる。

ジョーは一足先に上京することになった。三ヵ月かけてLPを制作し、クリスマスにレコードリリース&コンサートを行なう。るいは荷造りの手伝いでジョーの部屋へ。そこでDippermouth Bluesの古いマッチを見つける。それを見たるいは記憶が蘇った。私がOn the Sunny Side of the Streetのレコードを聴いたのは、この店だ、マスターの名は定一だと……

ジョーは「やっぱり」と言うと、自分を拾ってくれたのは定一だと話し出す。ジョーの記憶……

夜、かろうじて屋根があるだけという瓦礫の隅で、古布にくるまって寒さに震えていると、そこへ定一がやってきて、紙包みを差し出した。中にホットドックが入っている。腹が減っているだろうと。そして少年に名を尋ねる。少年は「じょういちろう」と答える。大きな月が画面一杯に広がる。

今日のベリーとトミー

「くやしい?」
「フッ、ぜんっぜん。最高やった」
「あんたも悪くなかったで」

今日のるいとジョーと竹村夫妻(クリーニング店の店先で)

「おじさん、おばさん、サッチモちゃんを僕にください」
「ちょっと……」
「くださいて、大月君、それ」
サッチモちゃんに結婚を申し込みました」
「けっ……」
「おじさんとおばさんのお許しがもらえたら、二人で東京で暮らすつもりです。お願いします。サッチモちゃんを――」
「なんなんですか、いきなり、おじさんもおばさんもびっくりしてはるでしょう。私は大阪に出てきて、おじさんとおばさんにはほんまにお世話になってるんです。娘のように可愛がってもらってるんです」
「わかってるよ、わかってるから――」
「わかってない! わかってたらそんなこと、不躾に言えるわけない。おじさんとおばさんは就職に失敗した私のことを拾ってくれた。クリーニングのことを一から教えてくれた。それやのに、辞めるやなんて、そんなこと簡単にできるわけないでしょう」
「何を言うてんの。そない、いつまでもおられても困るわ」
「ふん、せやで……」
「でも」
「るいちゃん、うちに後継ぎがおらんから心配してくれてるのか」
「アホらし、こないな店な、一代限りでええんや」
「こないな店、言うな」
「そらな、もちろんうちらが二人で作った大事な店や。そやけど、そないなもんはただの形や。るいちゃんみたいなええ子が、いっとき手伝うてくれたなー、いつか隠居した時に縁側で二人でそないな話ができたら、うちらはそんで幸せや」
「(正座して)大月君、娘をよろしゅう頼みます」
「……はい」

今日のるいとジョーと竹村夫妻(夕食)

「るいちゃんがおらんようになったら寂しゅうなるなー」
「あんた、さっきと言うてることがスカタンやないの」
「そうかてな」
「あの、今すぐ行くわけじゃないですから」
「そうかてな」
「また遊びに来ます」
「そやそや、子供連れてな」
「孫ができるんか、それはええのう」
「泣くんか笑うんか、あんた、はっきりしいな」

雑感

本当にいろんなものが詰め込まれた回だった。

るいの悩み

雉真で育ってきたるいは、後継ぎというのがどのようなものか、骨身に染みて知っている。父が死んだために勇おじさんは好きな野球を辞めさせられて後継ぎになった。勇に男の子が生まれた時は周囲が大喜びした(たぶん)が、その子は雉真を継ぐべく、勉強を強要させられている。

雉真だけではない。母・安子も、たちばなのためだと言って、自分を一人置いておはぎを売りに行ってしまったではないか。入学式の前も、一緒に準備をしてほしかったのに、たちばなの用事といって大阪に行き、帰ってこなかったではないか。

そのためにるいはさんざん傷ついてきたし、自分だけではなく、いろんな人が、いろんな形で不満を抱えている。逆にいえば、家とか店とかいうものは、そうした個人の思惑などよりはるかに大事なものなのだ……と思って生きてきた。

それが、「一代限りでいい」などとあっさり言い放つ竹村夫妻の言葉に、るいは、天地がひっくり返るほど驚いたに違いない。そんな発想があるのかと。

るいの変化

大阪へ来たばかりの頃のるいの妄想癖はすさまじくて、よほど会話のない家庭で育ったのだなと思ったが、だんだん収まりつつあり、竹村家に同居してるいも変わったと思っていた。が、今回は久々の妄想劇。ジョーに結婚を申し込まれたことを話せず、悶々としていたのだ。

が、突然やってきていきなり結婚の申し込みを始めるジョーに言い返しているのを見て……ああ、るいはジョーには言えるんだ、と思って嬉しくなった。るいがかつてここまで自分の思いの丈を誰かにぶつけたことがあっただろうか。大阪でも、岡山でも、家庭内だけでなく恐らく学校でも、誰に対してもこんなに文句を言うことなどなかっただろうと思う。それだけでも、ジョーと出会ってよかったと思った。

トミーの気持ち

トミーは、ジョーに本気を出させたこと、逆に、ジョーに引っ張られて自分も120%の力を発揮させられたこと、最高の相手と最高の演奏ができたことに心の底から満足したのだと思う。負け惜しみでもなんでもなく。むしろ自分が認めたジョーが、他人にも認められたことを誇らしく思っているようでもあった。

そんなトミーに「あんたも悪くなかった」と声をかけるベリーもよかった。

今日の竹村劇場

和子が「いつまでもおられても困るわ」と憎まれ口を利いた後、平助が「せやで」と続けるまで、ちょっと間があった。これは、平助が、憎まれ口を利くのはやり過ぎや、もうちょっとマイルドな方向へ転換するぞ、と考える間だったのではないか。和子はそれを一瞬で感じ取り、憎まれるのではなく、気持ちよく送り出す方向で話すことにした、と。恐らくちょっとした間とか仕草とかで、この二人は瞬時にそうした打ち合わせをするのだ。

ジョーと定一

ジョーがホットドッグばかり食べているのは、単なる好きを通り越している。Dippermouth Bluesでマスターに食べさせてもらったのがホットドッグで、それがあまりにおいしかったから……とかいうのではないか、と予想していたのだが、ほぼ当たった。ジョーの名も、定一がつけたのでは(だから錠一郎という字になったのでは)と思ったが、本人がじょういちろうだと答えていた。読みはわかるが漢字がわからないから、それを定一が決めてやったということか。最後に画面に大きな月が映った。大月という名字もここから取った?

これまで邪魔者扱いしていた少年に親切にしてやる気になったこと、「進駐軍から失敬してきた」というホットドッグを差し出したことなどからすると、これはあのクリスマス・パーティのあった日の夜なのではないかと思われる。ちなみに月齢を調べると、1948年12月25日は24.3(三日月のほぼ逆)。その月の満月は16日だった。あの月は目に見えたものではなく、もっと観念的なものだった?

その他

  • ジョーとトミーは互角に思えた。コンテストだから順位をつけるのは仕方ないが、満場一致でジョーというのは(審査員が何人いあたか知らないが)ちょっと嘘くさく感じた。結局力を持っているのは笹川なので、彼らの意向で賞が決まっているということはないかな?
  • 磯村吟がラジオでコンテストの様子を生々しく語っていたということは、彼も会場にいたのか? ベリーが目ざとく見つけ、こっそりヤキを入れてたりして。

(2022/01/22 記)


映画ランキング