ドキドキしたかったら……

第1話「サラリーマン刑事と最初の難事件」で青島が挙動不審の男を取り調べる際に、自分が延々と愚痴をいう(有名な)場面がある。彼はご存知の通り脱サラして警察官になった。会社員時代は小さなコンピューター・メーカーで営業マンをやっており、営業成績は二年連続トップだった、ということになっている。しかし自分のやっていることに疑問を持ち、お客さんに「お前が来ると社員の仕事が止まる。寄生虫!」と言われて即、退職を決意。人間でいたかったから……

ここに、僕は強い不満がある。

彼のいた「小さなコンピューター・メーカー」というのは、どういうところを想定しているのかわからないが、パソコン・メーカーであれば、営業マンに彼のような売り方をさせていたところはなかったはずだ。そんなコストのかかる売り方はしないし、できない。また、そんなことをしなくても売れていたはず。

コンピューターなんていうのは、売った後も何かと手のかかるものである。今だってコンピューターを使っていると、メールが届かなかったり、ハングしたり、ソフトの使い方がわからなかったり、ウイルスがきたり、……トラブルや不明点がしょっちゅうあるはずだ。会社が何台もまとめて特定の営業マンから買っていたのであれば、その人に問い合わせがいくだろう。そこで親切に対応して問題を解決してあげれば、ユーザーからは感謝されるだろう。

またコンピューターは、継続的なメンテナンスの必要な製品でもある。ソフトウエアが絶え間なくバージョンアップを繰り返すからだ。今度はこういう製品が出た、今度はここの機能が強化された、ということを訪問の都度、教えてあげるだけで、顧客にとっては役に立つし、追加注文につながる可能性もある。さらに、便利なツールをフリーソフトで集めて紹介したり、イースターエッグ(ソフトに仕込まれた、裏技的なおまけの機能)を教えてあげたりすれば、喜ばれるだろう。

人から感謝されるような提案もサポートも情報提供もできず、従ってお礼を言われることもなく、その結果営業成績が悪く、そうして厭になって辞めたというならわかる。そういう人はいくらでもいる。ここで登場する田中文夫なども、そういうタイプかも知れない。しかし優秀な営業マンなら、顧客から引っ張りだこになるはず。「そうだったんですか、ありがとうございます!」と言われることなく、いい営業成績があげられるとは考えられない。

それに、コンピューター業界は、新しく刺激的な技術が次々と出てくる。青島君は5年間交番勤務だったということだから、彼が会社員だったのは1990年〜1992年ごろだろう。DOS/VMacOS 7.0が登場し、時代が劇的な変化を遂げていた頃だ。この時期にこの世界にいて、「何もドキドキすることがない」などというのは信じられない。

もし彼のいうのが事実なら、彼の営業成績は全くの偶然で、彼自身はコンピューター業界にも、営業マンにも適正がゼロだったのだろう。僕は青島君に伝えたい。ドキドキしたいなら、もっとコンピューターの勉強をすればよかったのに、と。