設定がイマイチ、ストーリーもイマイチ、何より主演女優がイマイチ、といっては失礼かな。
題名 | アップサイドダウン(原題:Upside Down) |
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監督 | フアン・ソラナス |
出演 | キルステン・ダンスト(エデン・ムーア)、ジム・スタージェス(アダム・カーク)、ティモシー・スポール(ボブ・ボルショヴィッツ)、他 |
公式サイト | 映画『アップサイドダウン 重力の恋人』オフィシャルサイト |
制作 | カナダ・フランス(2013年9月7日日本公開) |
劇場 | ヒューマントラストシネマ渋谷 |
内容紹介
設定
双子星に住む人の話。このふたつの星は、山と山の頂上がぶつかるぐらいに……少なくとも、互いの星にいる人の顔が見れ、話ができるくらいには接近している。
それぞれの星の「重力」は、その星で生まれた物質のみを引きつけ、相手の星の物質には影響を及ぼさない。互いの星の物質が接触すると3時間で燃え出す。
一方の星には富裕層が住み、一方の星には貧困層が住む。富裕層が住む星は「上の世界」、貧困層が住む星は「下の世界」と言われている。上の世界が下の世界からエネルギーを搾取しているため、貧富の差が生まれたのだ。互いの交流は堅く禁じられており、唯一の例外がトランスワールド社。双方の星をつなぐように建っているビルがオフィスで、従業員には両方の星の人間がいる。フロアでは、床と天井にそれぞれの星の住人が逆さまに座って(あるいは立って)いる。
それ以外は双方の星で共通点は多い。双方の人間の見かけも能力も同等、話す言葉も英語で同じ。
ストーリー
上の世界に住むエデンと下の世界に住むアダムは、立ち入りが禁止されている山頂に入り込んで(山頂同士が接近しているため)出会い、仲良くなり、愛を育んできた。思春期になると、エデンが「下の世界」に降りてきてデートを楽しむようになっていたが、国境警備隊に見つかり、エデンは「上の世界」に落ちて頭を打ち、重傷を負う。アダムは家を焼かれ、肉親とも引き離される。
それから10年。アダムはエデンが死んだものと思い込んでいたが、彼女がトランスワールド社で働いていることを知り、再会を願う。そして努力の末、トランスワールド社への就職を果たす。同社では確かに上下の世界の人が一緒に仕事をしてはいるが、席は上下逆さまだし、一緒に食事に行ったり飲みに行ったりというのは(ルールでも禁止されているんだろうが)物理的に無理。また差別感情も渦巻いているから仕事以外の話をするのも難しい。
あれこれ苦労を重ねた挙句、ようやくエデンとの面会を果たすが、エデンは10年前の事故でそれ以前の記憶を失っていた――
雑感
SF版ロミオとジュリエット。制作者はこの設定を思いついた時に「これはいける!」と思ったのか知らんが、煮詰め方があまりにも物足りない。
重力は弱い力だが何物によっても打ち消されることなく無限遠点までその力は及ぶ。物質同士が重力によって引き合い、質量が増すと、その力は強くなる。この力によって星はその形を保っていられる。生物が生きていくためには太陽の(適度な)光と熱が必要だが、地球が太陽から一定の(ほどよい)距離を保っていられるのも重力のおかげ。……という「この宇宙」の常識からすると、互いに重力が働かないのになんでこのふたつの星はぶつかりもせず、離れ離れになることもなく双子状態でいられるの? とか、ふたつの星を結んでビルが建っているということは、この星は自転していないの? とか、自転していなかったら昼夜がなくなり、日が当たっているところは超高温、日陰は極低温になって生物は生きていけないだろうとか、おかしなところが山ほど目に付く。それらはまあ、劇中で説明されていないなんらかの理由でうまく成り立っているのだろうけれども。
互いの星の物質は接触すると数時間で燃え出すという設定だと最初に説明がなされる。その後、若き日のエデンとアダムが密会を重ねるが、その設定に従えば、プレゼントの交換はできない。受け取ったものは、どこに置いてもあっという間に燃え出すからだ(仮に空中に浮かべておいても、空気に接触して燃え出す)。キスもできない。うっかり唾液を飲みこんだら大変なことになる。ところが彼らは最終的にセックスして妊娠までしてしまう。精子が注入されたら子宮が焼けただれて母体は死ぬだろう! 物語独自の設定が守られていないのは、どのように受け止めればいいのか戸惑う。
他にも山ほどある設定の不備は脇に置いて、ストーリーはどうかといえばこれがまたちょっと……。10代の頃に熱烈な恋愛をしていたとする。嫌いになったわけでも、嫌われたわけでもなく、なんらかの事情で疎遠になってしまったとして、10年経って再会した時に、そこで再び恋愛を継続できるだろうか? 懐かしさはあるだろう、好意も持っているだろう、しかし仮にその時点で互いにパートナーがいなかったとしても、10年も経てば嗜好は変わる、自分を取り巻く環境も変わる、職業も中堅どころになっているし、パートナーに求めるものも変わる。付き合いが継続していればともかく、10年もの中断があって簡単に再開できるとは思えない。かつての気持ちが蘇るためにはよほどの必然性が必要と思うが、劇中では、エデンの記憶が戻った途端に恋愛が再開されるという、何のひねりもない展開。
そもそも、申し訳ないが、僕はキルステン・ダンストにあまり魅力を感じない。アダムが、自分の人生を賭けて会いにいかねばならないほどの相手だとは思えないのだ。だから、そんな無理しなくても、周囲には相応の女性がいるのでは? と鼻白んだ感想しか出てこない。
というわけで、大仰な設定の割に中身はスカスカという作品だった。
配役
キルステン・ダンストは「スパイダーマン」1、2、3でMJ役で登場。ファンの方には申し訳ないが、これほどの話題作になぜ彼女がヒロイン役で選ばれたのか全く理解できなかった。でもいろいろ賞も獲っているし、女優歴は長いんだよね。まあ好みは人それぞれということで。
(2013/09/18 記)
過去記事
- 深田恭子そっくりのカワイコちゃん「アメイジング・スパイダーマン」(2012/06/23)