昨年の「東京家族」に続く山田洋次監督作品である。下記には、監督および主要な役者の現時点での満年齢を記す。
題名 | 小さいおうち |
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原作 | 中島京子 |
監督 | 山田洋次〔82歳〕 |
出演 | ■昭和時代/黒木華(タキ)〔23歳〕、橋爪功(小中先生、タキの最初の勤め先)、吉行和子(小中夫人)、室井滋(貞子、小中先生の親類)、松たか子(平井時子、小中先生の親類)〔36歳〕、片岡孝太郎(平井雅樹、時子の夫/玩具会社常務)〔46歳〕、秋山聡(平井恭一・幼年期、時子の子)、市川福太郎(平井恭一・少年期)、ラサール石井(柳、雅樹の勤務先の社長)、吉岡秀隆(板倉正治、画家/雅樹の勤務先の新入社員)〔43歳〕、笹野高史(花輪和夫、タキの見合いの相手)、螢雪次朗(酒屋の親父)、林家正蔵(マッサージの治療師)、中嶋朋子(睦子、時子の友人) ■平成時代/倍賞千恵子(タキ)〔72歳〕、妻夫木聡(健史)〔33歳〕、夏川結衣(康子、健史の姉)〔45歳〕、小林稔侍(荒井軍治、健史のおじ?)、木村文乃(ユキ、健史の彼女)〔26歳〕、米倉斉加年(平井恭一)、他 |
公式サイト | 山田洋次監督最新作『小さいおうち』2014年1月25日ロードショー! |
制作 | 日本(2014年1月25日公開) |
時間 | 136分 |
劇場 | TOHOシネマズ ららぽーと横浜 |
内容紹介
昭和初期、山形の農村に生まれたタキは小学校を終えると女中奉公のために東京に出てくる。晩年のタキいわく、当時はサラリーマンの家庭は女中を置くのが普通だった。ちゃんと給料も出るし、花嫁修業の意味合いもあり、女中は当時の女性にとって人気職業のひとつだったとのこと。
作家の小中先生の家を経て平井家に世話になることになったタキは、美人で気品があり親切な奥様である時子に憧れ、平井家のために献身的に奉仕する。よく働くタキを時子もかわいがり、恭一もなつく。平井家は坂の上にあるモダンな新築一軒家で、その家に住めるということもタキにとっては誇らしいことであった。
家の主人である雅樹は、よき仕事人であり、またよき夫・よき父でもあったが、戦争の話か仕事の話しかせず、時子の趣味に理解を示すようなこともなかった。
そんな矢先に、会社の新入社員である板倉正治が訪ねてくる。芸大出の画家で、デザイン担当として入社したのだが、この家は前から知っており興味があったという。酒に弱く、戦争と仕事の話が苦手で、映画の話で時子と盛り上がった板倉は、その後たびたび平井家を訪れるようになる。
独身の板倉の面倒を見、親代わりのつもりの平井雅樹は、板倉に嫁を娶らせようと、いいとこのお嬢様の釣り書きを揃えて時子に渡し、気に入った相手と見合いをさせるように時子に言いつける。そして縁談の話を進めようと時子は板倉の下宿を訪ねるが、戻ってきた時は帯の向きが逆になっていたことにタキは気づいてしまった……
雑感
山田洋次監督作品は、好き嫌いで言えば好きなタイプのものではない。しかし、作品のクオリティが高いため、安心して見ていられる良さはある。82歳でこれだけの作品を作ってしまうとは。
全体的にはよくできていたと思うが、ひとつだけ不満を述べるなら、吉岡秀隆はミス・キャストだったと思う。僕はもともと吉岡という役者があまり好きではない。ただ、今回ミス・キャストだというのは好き嫌いの問題ではない。年齢的に、板倉を演じてはいけない役者だと思うからだ。
昭和編は、だいたい昭和10年ぐらいから20年までを描く(タキが東京に出るところから数えればもっと前からということになるが、平井家に入ったのが多分昭和10年ごろ)。それから板倉が新入社員として紹介される。最初は中途採用なのかと思ったが、どうやら新卒らしい。それから何年か経過して、いよいよ戦局が押し迫った頃、嫁を取るようにいう周囲に対して「まだ30前ですから……」というセリフがある。吉岡のどこをどう見れば30前に見えるのだ。
本作は、年の離れた夫である雅樹や、会社のおじ様ばかりの中にあって、まずぽんと若い男の子が紛れてくるところからドラマが始まるわけであろう。若い男の子だから、タキも気になるし、時子も可愛がるわけである。
結婚して長く経ち、子供も成長すると、夫もいちいち自分にときめかなくなるし、子供の母としての役割もある。容姿の衰えを実感すると、女として現役じゃなくなったような気になるところへ、若い男の子と仲良くなれれば、有頂天になってしまう心情は想像がつく。
一方、若い男も、特に女性と付き合った経験のない男にとって、同世代あるいは年下の女の子というのは、扱いに難しく、すぐに拗ねたり泣いたりするので面倒に感じられることがある。それに対して年上の女性は、自分を包み込んでくれ、甘えさせてくれるので、これまた夢中になってしまうことがある。
時子は板倉よりずっと歳上のはずである。時子はどのみち夫がいるのだから、不貞であり、許されることではないが、それとは別に、仮に時子が独り身だとしても、もともと釣り合わない相手なのだ。今この瞬間、相手を愛おしく思う気持ちに嘘はないとしても、火遊びでなければ成立しない関係だ。そういう前提でこの物語は成り立っているのだと思う。
ところが吉岡と松たか子は、どうみても吉岡の方が歳上。時子が人妻であることを除けば、お似合いに見える。それではこの物語は成立しない。だから、誰が見ても不釣り合いな若い役者が演じるべきだった。
ついでに言えば、夏川結衣と妻夫木聡は、最初母子の設定なのかと思った。だから妻夫木(演じる健史)が「ねーちゃんの作るとんかつはまずい」と言った時、おねーさんって誰だろう、と思ってしまった。
山田監督は、慣れ親しんだ役者を繰り返し使う傾向が強い。現有メンバーで配役を見直すなら、妻夫木と吉岡の役を入れ替えたら良かったんじゃないか。そうすれば、20代ではないが、松たか子より歳下設定はクリアできるし、吉岡と夏川の兄弟というのもしっくりくる。もっとも、そうすると、晩年のタキと健史が向き合う場面は、まるっきり寅さんになってしまうから、それもダメか。
配役
- 橋爪功と吉行和子は「東京家族」でも夫婦。夏川結衣は長男嫁で、中嶋朋子が長女、林家正蔵が長女の婿、妻夫木聡が次男。小林稔侍もいた。「東京家族」からはこの7人かな。
- 倍賞千恵子と吉岡秀隆は、もちろん「男はつらいよ」のさくらと満男。ちなみに僕が初めて観た寅さん映画はシリーズ20作目の「男はつらいよ 寅次郎頑張れ!」(1977年)で、まだ満男は生まれていなかった。みんな、年を取るわけだよ。
- 黒木華は昨年の日刊スポーツ映画大賞の新人賞である。「舟を編む」ではいかにも現代風の女性を颯爽と演じたが、本作ではまあ見事に田舎娘を演じている。最初は奉公先の人に何を言われても頭を下げるだけで何も返事をしないのに、だんだんと返事をし、自分の意見を言うようになり、最後は奥様に向かってぴしゃりと言うべきことを言い放つ。この変化を自然に演じ分けているのが素晴らしい。