内容もインパクトあるけど、映画作品として極めてよくできている。アマンダの体当たりの演技にも拍手したい。実話に基づく物語。
題名 | ラヴレース(Lovelace) |
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監督 | ロバート・エプスタイン、ジェフリー・フリードマン |
出演 | アマンダ・セイフライド(リンダ・ラヴレース)、ピーター・サースガード(チャック・トレイナー、リンダの夫)、シャロン・ストーン(ドロシー・ボアマン、リンダの母)、ロバート・パトリック(ジョン・ボアマン、リンダの父)、ジェームズ・フランコ(ヒュー・へフナー、「プレイボーイ」編集長/カメオ出演)、クロエ・セビニー(レベッカ、インタビューアー)、ハンク・アザリア(ジェラルド・ダミアーノ、映画監督)、クリス・ノース(アンソニー・ロマーノ、マフィア)、ジュノー・テンプル(パッツィ、リンダの親友)、他 |
公式サイト | 映画『ラヴレース』公式サイト |
制作 | USA(2014年3月1日日本公開) |
時間 | 93分 |
劇場 | シネマート新宿 |
内容紹介
日本語のタイトルを見た時、漠然とlove race(愛の競争?)のことかいなと思ってしまった。人物名だということは映画が始まった時にわかった。これは、「ディープ・スロート」で一世を風靡した伝説のポルノ女優を描いた作品だったのだ。「ディープ・スロート」という映画があったことすら初めて知った。
さて、若き日のリンダは両親にかなり厳しく育てられている。本人が両親の望むような子に育っているかは別問題だが、彼女は19歳の時に妊娠してしまったことがある。その時、親からはふしだらだなんだとさんざんなじられ、出産したものの、産後すぐに母親がどこかに養子に出してしまい、以後リンダは行方を知らない。……そんな事件があったため、親が付き合う相手のことを根掘り葉掘り尋ね、厳しい門限を設定したりするのもやむを得ないとリンダは考えている。
やがてバーを経営するチャックと知り合い、愛し合うようになる。パッツィはチャックに胡散臭さを感じるものの、リンダはチャックに夢中で、リンダの両親も外面のいいチャックを気に入ったようで、かくて二人は結婚する。
楽しいはずの新婚生活だったが、ある日チャックが売春斡旋の罪で逮捕される。実はチャックは借金を抱え、困っていたのだ。相手がマフィアのため、借金を返せないと大変な事態になるという。リンダも、手持ちの金はチャックの保釈金として使ってしまい、ほとんどない。そこでチャックはリンダに映画出演を持ちかける。
それはポルノ映画だった。リンダは顔もスタイルも際立っているとはいえず、スタッフは難色を示すが、チャックが自分たちのハメ撮りビデオを見せると、リンダのフェラチオのテクニックにスタッフは驚き、即座にこの行為をフィーチャーした作品を撮ることを決意。かくて「ディープ・スロート」という作品が作られ、それは全米で空前のヒットを記録する……。
雑感
チャックにポルノ映画への出演を強制されてもリンダは嫌がる態度を見せず、撮影所でも明るく振る舞い、むしろ積極的に取り組む姿勢を見せた。また、ポルノスターとしてであれなんであれ、世間の注目を浴びることに舞い上がっているようにも見えた。このあたりはちょっと意外で、まあそうした天真爛漫さがあってこそ、スターにもなれるんだろうなと思っていたのだが、リンダが実家へ帰るシーンから急に様相が変わる。
ある日の深夜、リンダが泣きながら実家を訪ね、母親にしばらくここに置いてほしいと頼む。その時ドロシーは、「結婚した娘が家へ帰ってきたなんて近所に知られたらなんと言われるか。家に帰りなさい」と突き放すのである。「あの人が暴力を振るうの」「あなたが悪いことをしたからでしょう」「お願い、2〜3日でいいから。いえ、今晩一晩でもいいから」「さっさと家へ帰ってチャックに仕えなさい。それが妻の務めです」……いったいこの女はなんなんだ。たとえリンダに非があろうがなんだろうが、娘が泣きながら助けを求めているというのに、話も聞かないで追い返すのか。そこへチャックから電話がかかってくる。「リンダを探しているんです――」もちろんドロシーは居場所を白状してしまい、リンダはチャックに連れ戻される。
そこからの展開は驚くべきものだった。チャックはリンダを脅迫し、暴力をふるい、ポルノへ出演させただけでなく、彼が取り入りたいと考えている相手にリンダを「提供」し、映画の出演料はリンダにびた一文渡さずチャックが管理し、さらに彼女をキャンペーンガールとして性具の大々的な販売に乗り出すなど、リンダを肉体的にも性的にも酷使して金儲けに邁進していたのだ。
リンダも、逃げ出そうと思えば逃げ出せないわけではなかった。が、敬虔なカソリックである母親から、夫のいうことに従うのが妻の役目だと刷り込まれてきたリンダには、その場その場で嫌がる素振りをするのが精一杯で、本気で逆らったり逃げ出したりすることができなかったのだ。
それなのに、父親は、娘が好き好んでこんな映画に出たと思ったのか、なんでこんな娘になってしまったんだ、私たちの何が悪かったんだと泣いて訴えるシーンまである。
それほど長い作品ではないのだが、結婚から映画出演まで、最初は第三者の視点(これまで多くのアメリカ人が、漠然とそうだと思っていた視点)で眺め、一転して同じ歴史をリンダの視点で振り返り180度違う事実を描き出していくところは見事だ。
最後は、このままではダメだと決意したリンダがチャックの支配を断ち切って逃げ出したことから彼女の人生が変わる。この自立と再生のストーリーもまた視聴者に勇気を与えるものだ。
しかし、娘が実はこういう状態だったのだということがわかったあとでもなお反省せず、一言も謝罪しないのは見事だったな。
今日の英語
- He came in.(イッたの)
リンダのフェラテクに耐えきれなくなった男優が、うっかり射精してしまい、監督から「どうした?」と訊かれてリンダが答えたセリフ。
配役
- ロバート・パトリックは「T2」でT-1000を演じた人。作中、チャックと会食のシーンで「前線で戦ったことがある」と言うが、これはあのことを指しているわけではあるまいな?
劇場
シネマート新宿は初めて。角川シネマ新宿と同じビルだ。