今年の1本目。1月中に1本観られてよかったが、最近はなかなか映画を観に行かれない……。
題名 | 繕い裁つ人 |
---|---|
原作 | 池辺葵 |
監督 | 三島有紀子 |
出演 | 中谷美紀(南市江、南洋裁店の二代目)、余貴美子(南広江、市江の母)、三浦貴大(藤井、大丸デパート勤務)、黒木華(藤井葉子、藤井の妹・車椅子)、片桐はいり(牧葵、雑貨屋経営・市江の服を扱う唯一の店)、杉咲花(ゆき)、永野芽郁(まり、ゆきの友人)、小野花梨(ゆきの友人)、伊武雅刀(橋本、ベテランテーラー)、中尾ミエ(泉先生、市江の恩師)、他 |
公式サイト | 映画「繕い裁つ人」公式サイト |
制作 | 日本(2015年1月31日公開) |
時間 | 104分 |
劇場 | 109シネマズ川崎 |
内容
南市江は、一流の腕前を持ち地元の人に愛された祖母に洋裁を仕込まれ、祖母亡き後店を継ぎ二代目となる。彼女がしているのは、祖母の作った服の仕立て直しと、祖母の残した型紙をベースに新作を少しだけ製作すること。彼女の作った服は牧葵の店のみが扱うが、即日完売。大丸に勤める藤井は、彼女の作る服をブランドとして立ち上げるべく奮闘するが、市江からは断わられてしまう……
雑感
原作が好きだったから映画も観てみたかったが、キャストを見て実はかなり観に行く気をなくしていた。小野花梨が拝めたのは嬉しいサプライズ。観に行った甲斐があった。しかし、それ以外の点では疑問に感じることが多々あり、その最たるはキャストだ。
藤井があそこまで市江に入れ込むのは、市江自身にも惹かれているのではないかと周囲が感じ、また市江も藤井を憎からず思っているのではないかと思わせる描写があり、たとえば
「藤井さんはよっぽど好きなのね」
「……」
「あんたの服がよ」
「わ、わかってるわよ」
みたいなセリフも飛び交うのだが、正直、中谷美紀と三浦貴大では、仕事を超えた付き合いが起こるとは考えにくく、三浦は、ではなく藤井は、純粋に仕事のことを考えているのだろうとしか思えないから、上記のセリフも、何を勘違いしているのこのオバサンたちは? という気になってしまう。
こういう言い方は申し訳ないが、恋愛スパイスを振り掛けたいのなら、もう少し若い女優を起用すべきだった。市江が30前後であれば、三浦が登場した段階で、ごく自然に「この二人の恋愛物語もあるのかな?」と期待できるのだが。もし中谷のキャスティングありきのプロジェクトだとしたら、逆に三浦のような若い男優ではなく、それ相応の人を藤井役に当てるべきだった。トヨエツとか。
片桐はいりのキャスティングも疑問。これまた失礼な言い方になるかも知れないが、そこは女優なので敢えてはっきり書くが、片桐はいりは顔がギャグである。真面目な顔してそこにぽんといるだけで笑いが起きる、そういう存在である。だから普通はそういうキャラの役をやることが多い。しかし今回のような真面目な役は全く以て似合わない。市江の作った服を着た牧を藤井がじろじろ見て、牧が照れるシーンが成立しないのだ。
高校生三人組の中で、名前がわかっている「ゆき」役を演じたのは注目の若手・杉咲花だが、もう一人、夜会に祖父の服を持ち込んだ子も存在感はあった。小野花梨が演じたのは、最もセリフが少なく、キャラ設定もはっきりしない子で、小野花梨を見られたのはよかったけど、この扱いは実に残念だ。はっきり言って杉咲花などよりよほど可愛いし、はるかにうまいのに……とワタシは思っている。学業優先で仕事を抑えているとかの事情があるならそれはそれでわかるが、今の映画界において彼女の存在がその程度なのだとしたら、誠にもったいない話である。その美貌と演技力は、近い将来、日本を代表する女優になる可能性もあると思うのだが。
原作では舞台は関西だったが、本作は東京の設定なのかな、と思ったら、ゆきの両親は熱烈なタイガースファンだという描写があり、神戸の町並みとおぼしき風景が映し出され、後半で藤井が「東京へ異動」になるので、舞台は関西だとわかる。それなのに、登場人物が誰一人として関西弁を喋らない不思議。強烈な違和感である。監督は神戸出身とのことだが、違和感はなかったのであろうか。
これは原作からのエピソードなので、必ずしも映画の出来の問題ではないのだが、観ていて気になったのは、冒頭で高校生のゆきが母親の服を自分が着られるようにと、リフォームを市江に依頼するシーン。のちにそれはデートのための服だったとわかる。女の子の服に対する気持ちと、それに応える南洋裁店の対応を示すささやかだが重要なエピソードだが、費用はゆきが自分で払ったのだろうか。まともな服のリフォームともなれば、相当な費用がかかるはずで(それこそ既製品なら新しい服を買った方がはるかに安いはず)、それを高校生が気軽に出せるとはとても思えない。また、その服はそもそも母親のものであって、リフォームしたらもう母親は着られない。ちゃんと母親の承諾は得ているのだろうか。
承諾を得ているなら母親同伴で来るのが筋である。もともと母親が南洋裁店の常連客だったようだから、ゆきも最初は母親に連れられて来るようになったのだろう。だったらなおさら一人で来るのは変である。せめてちゃんと親の承諾を取っていることを明言させるべきだったと思う。少なくとも市江はプロなのだから、そこはちゃんと確認を取るべきではなかったか。
オーダーがいいのは誰でもわかる。ただし、高いのである。若い人はなかなか手が出ないのである。僕も、服をあつらえたいと思って何度かテーラーの門をくぐり、見本を見せてもらったりしたこともあるのだが、値段を聞いてため息をつき、すごすごと店をあとにする、ということを何度か繰り返した。スーツをオーダーするようになったのは40歳を過ぎてからである。オーダー服は、ちょっとした贅沢品なんだと思う。だからこそ、そうした服に憧れ、そうした服を着る機会を大切にし、そういう贅沢を自分に許すことで生活が豊かになる、という面はあるだろう。それは大人の場合であり、高校生には無縁の話だ。そのあたりの、ある意味キモとなる部分が曖昧に描かれていたのは残念だった。
先代が偉大過ぎて自分に自信のなかった市江が、先代を超える(ことを目指す)とラストに決意する。こんなシーンは原作にはない。が、もともと地味な作品である。映画として、これは最低限の盛り上がりは必要だったのだろう。