窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

「カムカムエヴリバディ」(83):オーディション

第16週「1984-1992」(月)

放送日

  • 2022年2月28日

概要

いよいよ迎えた「妖術七変化!隠れ里の決闘」の敵役オーディション当日。大部屋俳優の五十嵐と虚無蔵は、ペアで殺陣を披露することに。ひなたも、謎の振付師・サンタとともにオーディションの様子を見守ります。見事な殺陣を披露する二人ですが、突然、審査員席に座っていたモモケンが立ち上がり……。(NHKオンデマンドの解説より)

オーディションは二人がペアになり、交互に黍之丞役と左近役を務めるやり方。まずは虚無蔵が黍之丞、五十嵐が左近役。五十嵐は動きがいい。次に交代して、という時に、モモケンが自ら黍之丞役を申し出、モモケンと虚無蔵が殺陣を披露することになった。

この間に20年前、算太が劇場で「妖術七変化!隠れ里の決闘」を鑑賞した回想シーンが挟まれる。劇場で派手に泣いている人がいて、うるさいと思いながら見ているが、灯がついてよく見たら団五郎だった。なれなれしく話しかける算太に、団五郎はつい、事情を話してしまう。自分の代わりに当てつけで無名の大部屋を起用して、そこまでテレビの世界に行った私が許せなかったのか……。

虚無蔵との殺陣を終えたモモケンは、これが20年前に父が見た風景なのか、と感慨深げだが、虚無蔵に向かって「あなたじゃダメだ」と言う。「私は私の左近役を探しに来たんです。あなたに頼ったんじゃ、父を超えられない」と。

今日のひなたと算太 その1

「五十嵐、あんなにうまかったっけ」
「相手役がうめえんじゃが」

今日のひなたと算太 その2

「時代劇は一流の斬られ役おっての主役じゃ」

今日の団五郎と算太

「だけどのう、団子ちゃん」
「団子ちゃん……?」
「親父ちゅうのは、一筋縄ではいかんもんじゃ。許しているようで、許していない。許していないようで、許しちょる。親父さんは、あんたに黍之丞をやってほしいんじゃねえか? 敵役の左近でのうて」

今日のモモケンと虚無蔵

「父は役者としてあんたに一目置いていたんです」
「それはほんまですか。なんで、もっと早うに言うてくれへんかったんですか。わし、20年、思いつめてましたがな」
「なんでって? 私はスターですよ。大部屋なんぞに軽々しく声はかけません」
「恐れ入りました」

雑感

実に見事な回だった。とにかく15分のほとんどの時間、ひなたはオーディションをただ見ているだけ。そういう回がちゃんと成り立っているというところがいい。ひなたも、最初と最後に一言ずつ程度しかセリフがないにもかかわらず、ちゃんと存在感があった。

特筆すべきは2点。26日にこの映画にからむモモケン、先代、虚無蔵、それぞれの葛藤をまとめ、それがどのような方向に進み、どう解決するのかと書いた。モモケンの先代への遺恨も、虚無蔵の引きずりも、解消は簡単ではないだろうと思ったが、それが今日一日で解決するとは。それは算太の「親父さんは、あんたに黍之丞をやってほしいんじゃねえか?」であり、モモケンの「父は役者としてあんたに一目置いていたんです」である。

当時の団五郎には殺陣はできない踏んだのか、自分と虚無蔵の一流同士の殺陣を見せたかったのか、などと考えていたが、左近役をやってしまったら黍之丞役はできないものな。算太の推理が一番当たっていそうである。また後者については、当てつけ起用だと思い込んでいる虚無蔵に、スターは大部屋なんぞに軽々しく声はかけないと言い切ることで、虚無蔵に直々に声をかけた先代は本当に虚無蔵を買っていたのだと信じさせた。今またこうして長々と声をかけている。モモケンが虚無蔵を軽んじているのではないことはわかる。だからこその説得力だ。

その他

  • 虚無蔵が黍之丞役になり「暗闇でしか……」と話し始めた時、監督がおや、と目を上げた。あれは「虚無さん、セリフしゃべれるじゃん」ということか?
  • 劇場で団五郎は派手に泣いていた。当時は「けったい侍」などを演じるコメディアンであり、この「軽さ」が彼の本性に近いのだと思う。二代目を継いだ後、日常の言葉遣いから所作までモモケンらしく努力して振舞っているのではないか。虚無蔵が、日常生活でも着流しを着、侍言葉をしゃべっているように。そういう20年の積み重ねの上での「私はスターですよ」なのだ。
  • 虚無蔵と五十嵐の殺陣を見て、五十嵐があんなにうまかったかと訝しむひなたに、相手役がうまいから、と即答する算太は、この世界では専門家なのだ。
  • 虚無蔵とモモケンの殺陣を見る五十嵐の顔は、「すげぇ……今の俺にはとても無理……」だった。他の参加者もいいものを見せてもらっただろう。
  • 虚無蔵とモモケンの殺陣のあと、倒れた虚無蔵がハァハァして、胸が上下していた。殺されたのに息をしているのはおかしい。殺陣は見事だが、年齢には勝てない。


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