雑感
第4部に入ってからきちんと歴史と向き合っていてそれがいい、と以前書いたが、今回はまたなぜかお伽話の世界に入ってしまった。
長崎の繁華街でイギリス人水夫が殺されるという事件が起き、下手人が白い服を着ていたところから海援隊士に嫌疑がかかったのはドラマも同じだが、史実では、パークス(駐日イギリス公使)が海援隊士ではないかと言ってきたのに対し、長崎奉行所は根拠が薄弱だとしてそれを撥ね退けている。パークスの交渉相手は土佐藩に移り、場所は土佐に移る。坂本龍馬もそのため土佐に向かうが、パークスに対して堂々と論陣を張ったのは後藤象二郎である。本事件は龍馬存命中には解決しなかったが、翌年福岡藩から藩士が下手人であったと届けがあって解決した。
歴史的な意義は、イギリス側が、幕府(の下部組織である長崎奉行所)を相手にしても事件は解決しないと確信し、交渉相手を土佐藩に変えたこと。つまり徳川幕府は統一国家としての機能を果たしていないとイギリス側が改めて認識したこと。そしてこの交渉に追われて土佐藩は大政奉還の準備が大幅に遅れたこと。
ちなみに、この時の土佐行きが、龍馬最後の帰省となる。
ドラマでは、長崎奉行所がここぞとばかりに海援隊に対して高圧的な取り調べを行ない、早々に真犯人が判明しても、そういう問題じゃない、とこれを撥ねつけてしまう。交渉のために土佐に移動もしないし、象二郎も出てこない。さらに、龍馬がこの事件を切り抜けると長崎奉行所の怒りはお元に向けられ、そのお元は日本を脱出してイギリスへ移住……という、なんとも荒唐無稽の筋書きになっていた。
お元は、長崎では名の通った芸子であると同時に、長崎奉行所のスパイであることは登場時から描かれていた。単に、人気芸子であるがために目を付けられ、断わり切れなかったのか、隠れキリシタンであるという弱みを抱えるお元は、積極的に奉行所に取り入って恩を売ろうとしたのか、小遣い銭稼ぎか理由は不明だったが、今回の長崎奉行である朝比奈昌広(石橋凌)との視線の芸を見ていると、この二人、愛人関係にあったのでは……? と思わせられた。だからこそ、お元の関心が龍馬に移っていったのに対し、朝比奈は怒り心頭に発していたのではないか……というのは、面白い解釈ではあった。この二人の目と目の演技が今回唯一の見所だった。
リンク
- 『龍馬伝』44回:逃げ切った、お元。(ヒマラヤスギ雑記、2010/11/01)