「大阪ラブ&ソウル」(NHK)を見た。日本シリーズがあったから、実際には録画で見たんだけど。
感想
主人公の金田哲浩君は、大学生だが、ハモニカ(ブルースハープ)に夢中で、大学を辞めてミュージシャンになるなどと能天気に口にする、苦労知らずのボンボンである。父は鶴橋界隈ではそれなりに名の通った焼肉屋の経営者。日系三世の韓国人であるが、日本生まれの日本育ちで、韓国語も喋れないし、自分の民族だとか血縁だとかいったことは考えたことがない。大学生だからそんなものかも知れないが、甘ったれのボンボンなのだ。
哲浩は、アルバイト先で知り合ったミャンマー人のネイチーティンと仲良くなり、結婚を考えるまでになる。このネイチーは、ミャンマーで民主化運動に取り組むが、迫害を受け、命の危険を感じ亡命。当初は韓国へ行き、そこで4年ほど暮らすものの、結局難民として受け入れてはもらえず、可能性を求めて日本に密入国。以来4年、安田雅恵などの支援者の協力を得て日本で難民申請をするが、なかなか認められない。ついには強制送還されそうになる。
ネイチーの支援者の一人であり弁護士の浜田は、カナダの方がまだ可能性もあるからカナダへ行ってはどうかと薦める。が、もちろん何か当てがあって言っているわけではない。韓国では、言葉がわからず知っている人が一人もいない中、なんとか頑張って生活してきた。が、4年でそこを離れ、また言葉もわからず知っている人もいない日本にきた。ようやく言葉がしゃべれるようになり、友達も恋人もできたというのに、またカナダで同じ苦労をしなければいけないのは、相当につらいことだろう。ミャンマーを離れた時はまだ若かったネイチーも、もう29。仕事も生活も恋愛も、本来、一生の土台を築くべき時期なのだが、就労ビザがないから居酒屋の皿洗いのようなアルバイトを続けるしかない。結婚も……
哲浩が結婚と口にしたのは、ネイチー個人に魅力を感じているのは無論だが、結婚すれば日本の戸籍が得られ、強制送還されることもなくずっと日本で暮らすことができる、ということも考えてのことだろう。だからこそ、ネイチーは哲浩に甘えてはいけない、とプロポーズを断わる。日本での永住権を得るには、結婚はチャンスだ。この打算は誰からも責められることではないと思うが、哲浩はネイチーに比べて若く(22歳)、あまりにも苦労知らずで世間知らず、自分のような人間との結婚がどれだけの苦労を背負い込むことになるのかまるでわかっていない、ということがネイチーにはよくわかるから、断わるべきだと考えたのだ。断わったところにネイチーの人間性が出ている。でも、つらい選択だ。
哲浩の父は、韓国に親戚(亡き父の弟や、その家族など)がいるが、一度も韓国に行ったことがなかった。が、母(哲浩の祖母)に命じられて訪韓を決意。哲浩も同行。父は、これまで在日ということで様々な差別に遭ったが、自分は韓国人であるという誇りをもって差別と闘い、仕事に打ち込み、ひとかどの店を経営できるまでになった。会ったことのない韓国の親戚は、同胞としての懐かしさ、一体感があるだろう……と恐らく期待したものと思われるが、実際には、日本で成功したことに対する僻みや妬み、差別などを受け、激しく傷つけられてしまう。自分はこれまで韓国人であることを唯一の拠り所としてきたが、本当はいったい何人なんだ……。そして息子に言う。あの女(ネイチー)と結婚したいなら、すればいい。でも、苦労するぞ、と。
岸部一徳は、「大阪ハムレット」や「めぞん一刻」が思い浮かぶが、あんな役もやれたのかと驚いた。あんな激しい内面の葛藤を、あそこまで情緒豊かに表現できるとは。一方、ネイチー役のダバンサイヘインは、本当にミャンマー人で迫害を受けて日本に逃げてきた人で、一時は入国管理局に収容されていたこともあったそうだ。今はぶじ難民申請が認められて大学に通っているとのことだが。つまりネイチーほぼそのままの人。どうりで下手だと思ったよ。芸達者な人が多かっただけに、彼女の素人ぶりが目立った。ま、それはそれでいいのだが。
こういうドラマを通じてネイチーの素性に触れると、なぜ日本は彼女のような人をちゃんと受け入れないんだ、ここで認められなかったら彼女の人生はどうなるんだ、と怒りを感じる。が、マスで考えると、最近日本もアジア人が増えてきたよなあ、これ以上外国人が増えてもなあ、と考えてしまう自分がいたりする。多くの人がそうではないだろうか。実際、外国人が増えると日本の文化が破壊されるとか凶悪犯罪が増えるなどと堂々と叫ぶ人も少なくない。さすがにそれは恥を知れと言いたいが。
いいドラマだった。