不幸の連鎖「八日目の蝉」

前から観たかったがようやく実現。

題名八日目の蝉
監督成島出
原作角田光代
出演井上真央(秋山恵理菜)、永作博美(野々宮希和子)、小池栄子(千草、ライター)、劇団ひとり(岸田、恵理菜の恋人)、渡邉このみ(薫:幼少時の恵理菜)、田中哲司(秋山丈博、恵理菜の父)、森口瑤子(秋山恵津子、恵理菜の母)、市川実和子(沢田久美)、風吹ジュン(沢田昌江、久美の母)、平田満(沢田雄三、久美の父)、余貴美子(エンゼル)、田中泯(写真館主人)、吉田羊(刑事)、他
公式サイト2011年4月29日(金・祝)公開!映画『八日目の蝉』オフィシャルサイト
制作日本(2011年4月29日公開)
劇場ワーナー・マイカル・シネマ(新百合ヶ丘

雑感

映画としてはよくできていたと思う。観て良かった。

事件の発端は誘拐という犯罪行為だが、その前後にこれでもかというくらい、不幸な出来事が続く。それらは密接に関わり合いを持っており、単純に誰が悪い、とか、ここでこうしていれば、とかいえず、次の不幸を招くという連鎖になっているところが切ない。それは20年以上経っても終わらないのだ。

野々宮希和子は秋山丈博と付き合っていて、妊娠するが、丈博には妻がいる。いずれちゃんと妻と別れて一緒に暮らせるようにするから、今は諦めてくれと言われて堕ろすが、同時期に丈博の妻・恵津子も妊娠していたことが判明。丈博は妻と別れる気などまるでなかったのだ。希和子の存在は恵津子の知るところとなり、恵津子は連日連夜、時に電話で、時に直接、希和子に罵声を浴びせ続ける。恵津子が出産すると、自分は産むことが叶わなかった希和子は、一目赤ん坊を見よう、そしてすべてを諦めようと、夫婦の一瞬の不在時を狙って家に忍び込むが、自分を見て笑った赤ん坊を見て、思わず連れ出してしまう……

希和子は、赤ん坊を薫と名づけ、4年間、可愛がって育てるものの、ついに発覚、逮捕され、薫―恵理菜は実の両親の元に帰ってくる。が、幼い子供にとって自分の母親は希和子であって、実の両親は全く知らないおじさん・おばさん。生まれ育った地からも離され、知らない人に囲まれて暮らす恵理菜は情緒不安定に陥る。また、一向に自分たちになじまない恵理菜を見て、恵津子も非常に感情的になり、恵理菜は母を慕うのではなく、母の機嫌を取って生活するようになる。

それから20年。ついに家族として打ち解けることはできず、大学進学を機に恵理菜は家を出て一人暮らしを始める。友達もろくにいない生活だが、唯一、岸田さんだけが好きだと言ってくれた。誕生日を祝ってくれた。一緒に食事をしてくれた。あちこち連れて行ってくれた。それは、これまでの恵理菜の生活にはないことだった。やっと生きていく喜びを知り始めたが、その岸田もまた、妻子ある男だった。血はつながっていないのに、自分は希和子と同じことをしている――

とまあ、並べるだけも救いのない話なんだが、こういう連鎖を断ち切るのは難しい。気になるのは、誘拐犯の手から子を取り戻した時のこと。希和子は犯罪者として逮捕されたわけだから、恵理菜(薫)にとって母親(と信じていた人)がいなくなるのは致し方ないが、それ以外の環境――住んでいた場所、可愛がってくれたおじさん、おばさん、近所のおともだち――を残してやることはできなかったのか。幸か不幸か、丈博・恵理菜夫婦も、事件のきっかけになった丈博の不倫事件が理由で元の会社をクビになっており、誘拐事件で騒がれたこともあって家を転々としていたという。それなら、一時的にでも小豆島に移り住んで、恵理菜が自分たちになじむまでそこで暮らす方法は採れたのではないか。希和子の世界からできるだけ引き離したかったんだろうけど……

もともと恵津子は希和子に対して執拗な中傷を繰り返したような、少々エキセントリックな性格ではあるのだようが、なかなかなじまないからといって、あそこまでわが子に感情的な態度を見せるのも解せない。自分を省みたり、生活を立て直したりといったことができず、すべては誘拐犯が悪い、浮気した旦那が悪い、なつかないこの子が悪いと、なんでも人のせいにしないと生きていられない人間なのだろう。

悪いというなら丈博が浮気の際にきちんと避妊をしなかったのが一番悪かったのではないかと思うが、そういう結論はいけないのかな。

その他

  • 井上真央は初めて見る。熱演だったが、熱演過ぎて、セリフの棒読みが目立った。もう少し淡々としていていいから、自分の中からセリフが出てくるまで練り上げてほしかった。
  • 永作博美はうまい。ただ、新聞報道によれば、希和子が捕まった時が33歳とのこと。とすれば、事件を起こしたのは29歳の時で、それ以前に丈博と付き合っていたのは27〜28歳の頃だということになる。童顔に見えるが永作も40歳。いくらなんでも年齢にギャップがありはしないか。永作を起用するなら、年齢設定を変えても良かったのに。
  • 希和子が逃亡中に一時身を寄せる「エンゼルホーム」は、劇中では「食事中に喋るな」というぐらいで、さほどおかしなところは述べられていないが、思い当たるものがある。以前、社会問題になった組織があった。そこでは、入会する時に全財産を没収する、自然食で健康を謳いながら、ろくに食べさせず、メンバーは栄養失調寸前(反抗・逃亡を防ぐためか)、奇妙な洗脳などで、その組織を抜けて家に戻っても、普通の生活ができなくなる、というような内容だったか。それをモデルにしたものだろう。
  • 千草は、あまりにも傍若無人な態度に、だからマスコミの人間って嫌だよな、などと思っていたのだが、彼女もまたエンゼルホームでの暮らしで傷を負い、普通の生活ができなくなっていたのだ。小池栄子の熱演だ。
  • 森口瑤子は「逃亡者 木島丈一郎」で木島の恋人役以来。
  • 希和子が小豆島に行ったのがやや唐突に感じた。沢田久美の実家を訪ねるのだが、沢田久美が誰だか思い出せず。

八日目の蝉 (中公文庫)

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