予備知識
昨年劇場で観た時は、知識があればもっと楽しめたのに、と思った。なので、少し調べてみた。1920年にギルが出会った人々。カッコ内は1920年時点の年齢(誕生日後)。
- コール・ポーター(29):作詞・作曲家。USAインディアナ州生まれ。1916年パリへ。1932年、「陽気な離婚」が大ヒット。
- ゼルダ・セイヤー・フィッツジェラルド(20):小説家。USAアラバマ州生まれ。「アラバマ・ジョージアの2州に並ぶ者無き美女」と称された。1920年の結婚後はニューヨークのスターとして過ごす。パリへ移ってきたのは1924年。奔放な性格。情緒不安定の傾向あり。結婚生活は必ずしも順調ではなく、のちに破綻する。パーティーの席で夫が他の女性と話に夢中になり自分を無視したという理由で自殺未遂を図ったことがある。夫の作家としての名声にコンプレックスを持っていたといわれる。
- フランシス・スコット・キー・フィッツジェラルド(24):小説家。USAミネソタ州生まれ。「楽園のこちら側」(1920)がベストセラーとなり、一気に浮上。「失われた世代」を代表する作家。パリではヘミングウエイと親交があり、妻からは同性愛かと疑われた。
- ジャン・コクトー(31):小説家、劇作家。フランス生まれ。代表作は「恐るべき子供たち」(1929)。1916年8月12日、カフェ「ラ・ロンド」でモディリアーニ、ピカソとモデルのガールフレンド、その他モンパルナス(セーヌ川沿いの地区)の画家や美術評論家たちと一堂に会する。この時コクトーが撮った写真は有名。
- アーネスト・ヘミングウェイ(21):小説家。USAイリノイ州出身。1918年にパリに渡り、ガートルード・スタインらとの知遇を得て小説を書きはじめた。ボクシングの心得あり。代表作は「日はまた昇る」(1926)、「武器よさらば」(1929)など。
- ガートルード・スタイン(46):作家、詩人、美術収集家。USAペンシルベニア州生まれ。1903年、パリに移住。モンパルナスに芸術的創造力のある者が多く集まっていたため。画家や詩人たちが集うサロンをパリで開いていたことは有名。そこに集まる芸術家たちとの交流の中で、現代芸術や現代文学の発展のきっかけを作ったともいわれる。マティス・ピカソは初期からのメンバー。
- アドリアナ:実在の人物ではないようだ。ピカソの愛人でモデリアーニとも浮名を流したフェルナンド・オリヴィエがモデルか。
- パブロ・ピカソ(39):画家、彫刻家。スペイン生まれ。1902年、パリでの生活を開始。わかっているだけで9人の女性と深い関係を持ち、4人の子供が生まれ、2人の女が自殺し、2人の女が精神崩壊した。
- サルバドール・ダリ(16):画家。スペイン生まれ。1927年パリに赴き、ピカソを初めとするシュルレアリスム(超現実主義)の中心人物たちと面識を得た。天才と自称してはばからず、多くの奇行や逸話が知られている。
- ルイス・ブニュエル(20):映画監督。スペイン生まれ。1925年にパリに出てシュルレアリスムを知る。1928年、「アンダルシアの犬」をダリと共同監督。ギルが授けたアイデアがどの作品に反映されたのかは不明。
- マン・レイ(30):画家、写真家。USペンシルベニア州生まれ。1921年、パリに移住。
- T・S・エリオット(32):詩人、劇作家。USAミズーリ州生まれ。ハーバード大学卒業後はヨーロッパ各地と米国を往復し研究活動を行なう。1927年イギリスに帰化。
- アンリ・マティス(51):画家。20世紀を代表する芸術家。色彩の魔術師。フランス生まれ。
1890年に出会った人々。カッコ内は1890年の年齢。
- アンリ・ド・トゥールーズ=ロートレック(26):画家。フランス生まれ。子供の時に両足の大腿骨を骨折して発育が停止したため、胴体の発育は正常だったが、脚の大きさだけは子供のままの状態だった。1882年にパリに出る。
- ポール・ゴーギャン(42):画家。フランス生まれ。
- エドガー・ドガ(56):画家。フランス生まれ。
19世紀末から第一次世界大戦勃発(1914)までのパリが繁栄した華やかな時代は「ベル・エポック(良き時代)」と呼ばれる。19世紀の中ごろは普仏戦争に敗れ、不安定な政治体制が続いたが、産業革命が進み、都市の消費文化が栄えるようになった。伝説のレストラン、マキシムは1893年オープン。ベル・エポックに咲いた大輪の花としてその名をとどろかせた。これに対して1920年代を「レ・ザネ・フォル(狂乱の時代)」と呼ぶ。
映画雑感
- 一年前に劇場で観た時は傑作だと思ったが、自宅のテレビで見ると、詰まらなくはないけれど、正直、さほど面白いものだとは思えなかった。こういうことがあるから、劇場で観られる時は劇場で観ないとダメなのだ。また、劇場で観たことのない人の映画評を信用しないゆえんでもある。
- 冒頭で現在のパリの風景をじっくりと映したのはのちの布石ですね。
- それにしてもポールは(キャロルも)嫌な奴だ。異国の地で古い友人にばったり会って嬉しいのはわかるが、相手は結婚を控え、両親や婚約者と一緒に来ているのだ。食事を一回くらい一緒にというならまだしも、連日連夜付き合わせるのは正気の沙汰ではない。ポールもキャロルもギルとは面識がないのだ。ギルが嫌がるのは当たり前で、それを「社交的じゃない」などと非難するイネスもどうかしている。両親も、それを叱るどころかギルに尾行をつけるのだから、「この親にして」といったところか。
- 以前の感想にも書いたが、ギルは「注文がひっきりなしにくる」(イネス)人気脚本家。イネスの父は会社を経営しており、母は100万円以上もする家具を簡単に買ってしまうほど裕福で、ギルに対して「収入はまあまあだが……」と気に入らない態度を示すが、逆にいえば、それでも「まあまあ」だと言われるほどの収入を得ているということである。それほどの人気脚本家に対し、周囲(イネスとその家族、キャロル、ポール)が全くうらやましがる様子を見せないのも妙である。そこいらの大学の講師(ポールのこと)にコンプレックスを持つ必要がない、立派な文化人の一人であると思うのだが。
- イネスらにはもう少しガツンと言い返してやれば良かったとは思うが、別れて正解。
- 1920年代のパリについては、ちょっと調べただけでもずいぶんいろいろなことがわかった。若き芸術家が多くパリに集まっていたことも。ただし厳密には彼らがパリにいた日は一致していないようである。
- ギルがタイムスリップして向かった1920年代の日は、時間の進み方が早いような気がしていた。たとえばスタインのサロンは毎週土曜日に開かれていたようだが、ギルは毎晩通っている。こちら(2010年)での一日が向こうでは一週間だったのかも知れない。時間帯も、深夜0時を過ぎてからタイムスリップが起きるが、着いた時刻は0時ではなくもっと早い時間帯な気がする。そのあたりは深く追求するなということか。
- 結論はありきたりだけど、アドリアナ、イネスという美女と別れ、フランス生まれで(今の)パリを愛するガブリエルと付き合うことが示唆されて終わるのはいい終わり方だった。
配役
- レイチェル・マクアダムスは美人だと思っていたけど(今でも思うけど)、本作では役柄自体が魅力的ではないため、印象がイマイチで残念。2013年は映画出演の予定はないようだ。キャメロン・クロウ監督の新作ロマコメに出演交渉中らしいが……
- 観光ガイド役のカーラ・ブルーニは、イタリア出身のモデル・歌手だが、フランスの政治家ニコラ・サルコジの妻でもあり、映画撮影時はファーストレディだったそうだ(ニコラ・サルコジの大統領在任は2007年5月16日〜2012年5月14日)。
過去記事
- 知識があればもっと楽しめたかな「ミッドナイト・イン・パリ」(2012/06/26)