窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

いろいろとモヤモヤ「すべては君に逢えたから」

玉木宏ひさびさの映画登場で楽しみにしていたのだが……

題名すべては君に逢えたから
監督本木克英
出演■イヴの恋人/玉木宏(黒山和樹、IT企業社長)、高梨臨(佐々木玲子、売れない役者)、
遠距離恋愛木村文乃(山口雪奈、服飾デザイナー)、東出昌大(津村拓実、建築会社勤務)、
■クリスマスの勇気/本田翼(大友菜摘、ケーキ屋アルバイト)、
■クリスマスプレゼント/市川実和子(岸本千春、養護施設勤務)、甲斐恵美利(寺井茜)、
二分の一成人式時任三郎(宮崎正行、新幹線運転士)、大塚寧々(宮崎沙織、正行の妻)、山崎竜太郎(宮崎幸治、正行の子)、
■遅れてきたプレゼント/倍賞千恵子(大島琴子)、小林稔侍(松浦泰三)、他
公式サイト2013年11月22日(金) 全国ロードショー|映画『すべては君に逢えたから』公式サイト
制作日本(2013年11月22日公開)
劇場イオンシネマ新百合ヶ丘

内容紹介

クリスマスイブ、東京駅近辺で6つの愛情物語が交錯し合う……

雑感

映画そのものの感想以前に、後味の悪いシーンがあったので言及しておく。

ラストシーン近く、黒山和樹が佐々木玲子に「初めてのデートで観る映画は何がお薦め?」と訊く。これは「これから一緒に映画を観に行きましょう」という意味である。「初めてのデートで映画はやめた方がいいんじゃないですか?」くらい気の利いたセリフが返ってくるとよかったが、返事をせず、二人はネオン街に消える。映画に行ったのか、飲みに行ったのか、はっきりさせず、とにかくデートに行きましたということを示唆して終わりならそれでも良かった。しかしその後二人が劇場で映画を観ているシーンが登場する。ここで二人が観ているのが「すべては君に逢えたから」だった、というようなシュールな展開もありだったと思うが、二人が観ていたのはなんと「カサブランカ」。「君の瞳に乾杯(Here's looking at you, kid.)」と字幕が出ていたから明らかだ。

それで、なんというか猛烈に腹が立ってきたのである。今東京駅近辺で、いや東京でなくてもよい、日本全国の劇場で、「カサブランカ」を上映しているところがあるなら言ってみろ、と言いたい。今すぐにそこへ観に行くぞ!

映画というのは極めて一過性の高いもので、もちろんスポーツの試合やコンサート等「一回限り」のものに比べれば、一定期間、全国どこでも繰り返し観ることができるのだが、いずれにしても極めて短期間であり、時間も限定される。小説や漫画を読むようなわけにはいかないのである。どんなに名作であっても、過去の作品を劇場で観ることは不可能なのだ。

レンタルショップでDVDを借りて、たとえば黒山の部屋へ行って一緒に見る、というのならリアリティがある。初めてのデートでいきなり部屋へ行くわけにいかないというなら、DVDを借りたあと、漫画喫茶へ行ってもよい。普通のカップルはそうする。あるいは、黒山が自分の会社に連れて行く手もあろう。会議室には大きなスクリーンがあるから、ちょっとした映画館気分で観られるよ……とかなんとか言って。

そもそも、二人が会ったのが何時かわからないが、養護施設でのクリスマス公演を終え、後片付けを済ませた後なのだから、そんなに早い時間ではないだろう。ちょっとネットで調べてみると、東京発高知行の深夜バスはだいたい20時半ごろの発車のようだ。それから移動して、となると、どこの劇場に行くかにもよるが、そもそもレイトショーにも間に合うかどうかギリギリの時間である。そして有楽町近辺の映画館にはレイトショー自体がない(TOHOシネマズ日劇も、TOHOシネマズ有楽座も、TOHOシネマズシャンテも、丸の内TOEIも、丸の内ルーブルも、角川シネマ有楽町も、ヒューマントラストシネマ有楽町も、19時台の上映開始が最終で、それ以降はやっていない)。

最近はさらに遅い時間のナイトショーを実施している映画館があるにはある。TOHOシネマズ六本木や新宿バルト9などがそうだ。しかしそうした劇場は限られるし、作品の選択の余地はまずない。以前からその時間に好みの作品が上映されるのを知っているか、さもなければ、映画館に入れれば作品は何でもいい、という人向けである。

映画製作に関わる人がこうした事情をご存知ないはずがない。なんでこの場面だけ急にSFになってしまったのだろう。二人はどこの劇場へ行ったのか、その劇場は何時まで上映しているのか、その程度の裏は取ってほしかった。

映画全体の話。

冒頭、ちょっと話が進むとすぐに別の人物、別のシーンが出てきてつながりがない。わかりにくい進め方だが、並行するいくつかの小さなストーリーが絡み合って最後にひとつに溶け合うのかな、と想像できる。ところがそれぞれの話は溶け合わない。佐々木玲子が公演に行く先が千春や茜のいる養護施設だったり、宮崎正行がケーキを買いに行く先が大島琴子の経営するケーキ屋だったり、その正行は黒山の義兄だったり、と多少の関連性はあるが、ストーリー自体は影響を及ぼし合わない。遠距離恋愛の話に到っては、他の話殿関連性はゼロ。まあ新幹線利用が宮崎と噛んでいるということなのかも知れないが……

別個の話と思っていた小品がひとつにまとまっていく爽快感は「謝罪の王様」では堪能したが、これは無理にとってつけただけ。そしてひとつひとつの話も、どれもあまり感心しないものばかり。黒山と佐々木の物語で、佐々木は偶然と思っていたことが黒山は作為に感じられ、そして実は偶然ではなかったとわかるあたりはうまくできていた。黒山が佐々木に急速に惹かれていく理由の説明にもおり、爽快感があった。しかしIT社長=金持ち、というベタな設定にもうんざり。Web制作をやっているらしいが、今どきWeb制作はもうからないぞ。スタッフがスーツを着ていたのも違和感あり。そもそも東京駅近辺にオフィスを構えているのも違和感あり。部下を怒鳴りまくり、秘書にプライベートなDVDを借りてくるような仕事までやらせる黒山という人物に感情移入はできなかった。

長距離恋愛はもっとひどい話で、山口雪奈がひたすらうざい。モーニングコールと称して自分はベッドの中でぬくぬくしながら電話するけど津村拓実は出勤前で着替えているところだったり。朝の1分がどんなに貴重か勤め人なら誰でも切実に感じているだろうに。まあ、「こんなんじゃ無理だよ」という雪奈に「ああ、無理かもな」と拓実が答え、ぽかんとする雪奈に「お前が無理だって言ったんだろ」というあたりでわずかな爽快感があった程度。

二分の一成人式では、宮崎正行が不治の病にかかるのだが、あと数か月の命という割に病院に行く様子もないし。入院もしていない患者に「あと○ヶ月です」なんて安易に言うものなのか。仕事を辞めるにあたって子供に説明しないというのもひどいと思った。3歳4歳ならともかく、10歳なら話せばわかる。お父さん今日会社行かないの? と言われてはじめて「辞めたんだ」はないよなー。いくら口先で好きだ、愛していると言われても、肝心なところで仲間外れにされていたのでは、信頼関係など起こりようがないではないか。

そもそもクリスマスの愛情物語に男女の恋愛以外に家族愛、親子愛をまぜてきたのも違和感があったが、それをいうなら全部の話に違和感があったな。

配役

監督

本木克英監督作品は、これまで「おかえり、はやぶさ」を観ている。

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