雑感
当初は240kmを4日で移動するのは相当にキツイと思っていたが、そうでもなさそうだ。調べてみると、経費節減のため、多くの大名が宿場町を通過する時以外は相当な速度で移動したらしい。記録では前田藩が480kmを7日で移動したこともあるそうだが(一日約69km)、そこまでいかなくても、一般の旅人より移動はずっと速く、進める時に一日50km程度進むのは普通だったようで、それからすると、壮年の男子7名が4日で240kmというのは、それほど無理ではなかったことになる。無茶な山越えをする必要はなかった。もちろん妨害さえなければ、だが、その妨害も、街道沿いに移動した方がリスクは格段に減らせたはずだ。
劇場で観た時の感想でも書いたが、大変だったのは費用の工面と旅支度の準備の方だったろう。これを夕方に知らせを受けて翌朝までに済ませるのは神業としか思えない。本当はここにこそドラマがあったと思うが、詳細が描かれなかったのは残念だった。
いくつかプロットの粗も気になってしまった。
仙台藩とのすれ違いは、かなり変である。産婆と早飛脚はお咎めなし、というのは列を横切る場合のこと。行列が行き過ぎるまで道の向こう側に行かれないと困るからそういうルールにしていたわけで、すれ違うだけなら列をよけて道端を行けば問題なかったはず。天下の仙台藩に失礼がないよう、気を遣いながらゆっくりすれ違っていると時間がないから……と解釈すればいいのだろうか……。
内藤政樹が行列を貸してくれたのは感動するシーンだが、偽装のための道具を取られてしまった今、紋付の布や用具を簡単に用意できるわけがなく、かなり無理があったように思われる。なにかの理由で磐城平藩が湯長谷藩の紋を大量に持っていたとか、支藩だから紋は同じだとか、何か理由づけがほしかったところだ。とはいえ、「武士は相身互い」……いい言葉だ。
今回の参勤は、金山に対して嘘の報告をした嫌疑を晴らすためだが、「金が出た」ことは示せても「金が出なかった」ことを証明するのは極めて難しい。あの程度の弁明で「金が出た」と思い込んでいる松平信祝が納得したとは思えず、「そんなことを言って隠しているのだろう」と言い張ったはずで、政醇に好意的な、というより信祝の悪巧みを暴きたい松平輝貞にとっても、これでは物足りないのではないか。政醇を責め立てる信祝がうっかり口を滑らせて自分の私心を漏らしてしまうとか、証人が登場して江戸城下で信祝が政醇を襲ったことがバレるとか、何か決定打が欲しかったところだ。
徳川吉宗公は信祝の考えを見抜いていて、炙り出すために敢えて泳がせていたというが、これも妙な話だ。信祝に監視をつけた様子がなかったからである。信祝を監視し、その結果「お前は湯長谷藩を呼び出しておきながら、公儀の隠密を勝手に使い来られないよう妨害工作を行なったな。その結果隠密が大勢死に、幕府は痛手を蒙った。ちゃんと見ていたぞ」というのならわかる。というか、そうすべきだった。吉宗は詰めが甘過ぎると言われても仕方あるまい。*1
文句ばかり書いたが、全体的にはテンポがよく、ユーモラスな描写が随所にあって、面白い作品であることは間違いない。原発再稼動の動きも盛んな今、吉宗のセリフ、
よいか。けして磐城の土を殺すでないぞ。この先、永遠にな。
はずしりと胸に響いた。この一言だけでも価値はある。
予告編では「恋の予感!?」などという煽りもあったが、内藤政醇がお咲を側室にしたのは恋心ゆえではないだろう。あのまま宿に残していくと彼女が厳しい咎を受け、命を落とすことになるかも知れない、お咲が死ねば、今度はその妹が同じ運命をたどる、それを避けたいがために江戸へ連れて行ったのではないか。自分を救ってくれたお咲に対する政醇流の思いやりである。彼女が傍にいると閉所恐怖症が治るから、その点を買った、というのもあったかも知れないが。
(2015/1/14 記)
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