最終週「スエコザサ」(金)
130回一度も欠けることなくすべて見て、しかも感想を残せた。「わたし、やりました」。
放送日
- 2023年9月29日
概要
春、竹雄と綾が新酒を持って槙野家にやってくる。寿恵子、虎鉄、千歳、千鶴ら家族みんなで綾と竹雄の酒を味わいながら、楽しい時間を過ごす。そして季節は夏に――。3,206種を載せた図鑑がついに完成。最後のページを飾ったのは「スエコザサ」。万太郎が見つけた新種のササに寿恵子の名を刻んだ。寿恵子への感謝と永遠の愛を誓って……。(NHKオンデマンドの解説より)
北海道へ行った帰り、東北大学にも呼ばれて立ち寄る。そこで新種の笹を発見。急遽、これも図鑑に追加することになった。五十音順で差し込めばページ構成がやり直しになるところだが、最後に差し挟むことに。絵はこの植物だけカラー。
万太郎は今日も植物採集に。画面に向かって叫ぶ。「おまん、誰じゃ?」
今日の寿恵子と万太郎
「スエコザサ、私の名前?」
「寿恵ちゃんの名前じゃ」
「じゃあ私、永久に万ちゃんと一緒にいられるんですね」
今日(?)の寿恵子と万太郎
「ねえ、日本中の植物、本当にこれで全部かしら」
「確かめに行かんと」
「じゃあ、まだまだ探しに行かないとね」
感想
昼に見て、5時間くらい経つけど、まだ思い出すだけで涙が出て来るし興奮が収まらない。
- 昨日、図鑑作成のためにわらわらと人が集まって来たのは素晴らしく、また面白かったが、今日は家族だけ、基本的に二人だけの芝居になっていたのはうまい。
- 竹雄と綾は千歳の結婚式にも来なかったし、あれで終わりは寂しいと思っていたら、最終日に登場。新酒を完成させた報告に。万太郎の図鑑とは別の意味で偉業達成だ。
- その一方、完成した図鑑の謝辞に、池田蘭光、野田基善、里中芳生、田邊彰久、徳永政市、大窪昭三郎、そして昨日手伝ってくれた面々の名前が列挙されていて、こういう形で「終盤にこれまでの登場人物を集める」やり方もあるのかと舌を巻いた。そしてこれはまた、東大を追い出される原因となった「必要な人に謝辞を示さない」ことに対する反省にもなっていて、いろいろなことが積み重なってここにいることを示してもいた。
- オープニングロールなし、中盤の図鑑が完成したことを寿恵子に報告するシーンで「愛の花」のフルコーラスが初めてかかる。これを聞いてようやくわかった。この歌は、植物の精になった寿恵子が万ちゃんに向かって歌ったものなんだな。だから「空が晴れたら会いに来て欲しい」なのか、そうか……
- 最後の「おまん、誰じゃ?」は、また新種発見か、と思わせると同時に、視聴者に対する呼びかけにもなっている。「あなたは何者ですか? 自分の人生を生きていますか?」という。そしてまた1話冒頭とブックエンドになってもいる(これは今確認した。確かに)。
twitterでは「最高」の呼び声が高いが、この130話に関しては、不満に感じたことも多い。
- 最終旅行から帰って来た時点で、「この笹は新種かも知れん、新種だったら寿恵ちゃんの名前をつけようと思う」という話をするはずで、原稿を書き上げ、印刷が済み、本になって初めて寿恵子に報告するのは不自然(実は、もちろん話しているのだが、寿恵子はそのことをすっかり忘れていた可能性も微レ存)
- 中盤の寿恵子と万太郎の会話のシーン、二人が涙ぐみながら話しているのは理解不能。一緒にいられる時間はあとわずかだということを二人とも感じていたのだろうが、視聴者にとってはあと数分でも、彼らにとっては今日明日どうこうなるわけでもなかろう。いちいち泣くのは不自然ではないか。「私がいなくなっても」と言い出して初めて涙が、ならまだわかるが。
- 図鑑に3206種の植物が載っていると聞いて寿恵子が「らんまんね」と答えるが、図鑑の項目が多いことを「らんまん」とはあまり言わない。タキの「らんまんじゃ」はとても嵌まったけど、ここで無理に繰り返す必要はなかった。
それはそれとして、傑作ドラマであったことは間違いない。
一番評価したいのは、人が死ななかったことだ。作中、明示的に死んだのは、ヒサ、タキ、森有礼、園子、田邊、寿恵子であろうか? 蘭光先生も、竹雄の両親も、とっくに亡くなられているであろうが、それはわからない。
このうち、死ぬ様子を描いたのはヒサと園子のみ。どちらも、ドラマに登場していた期間は短かったから、視聴者的にはさほど感情移入はしなかった。森有礼と田邊はニュースで知っただけで、詳しい事情は明かされなかった。タキはナレ死だがその前に家族に見守られて幸せいっぱいの様子を描いたので、いい人生だったな、と微笑ましく感じ、あまりセンチな気分にはならずに済んだ。
寿恵子だけはそうはいかないけど、主人公だし、最終回だから仕方がない。朝ドラは一日楽しく過ごせるようなものであるべきで、気が重くなる話はなるべく避けてほしい。そうした点で極力「死」を排除した本作は、安心して見ていられるドラマだった。