やってほしいことがある人は「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

期待に違わぬランクA作品。そのほとんどはメリル・ストリープの渾身の演技によっている。ルーニー・マーラがアカデミー主演女優賞の選に漏れた時は残念だったが、本作を見ればメリル・ストリープで納得である。今年12本目。年間57本のペース。

題名マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙(The Iron Lady)
監督フィリダ・ロイド
出演メリル・ストリープマーガレット・サッチャー)、アレクサンドラ・ローチ(若年期のマーガレット・サッチャー)、ジム・ブロードベント(デニス・サッチャー)、ハリー・ロイド(若年期のデニス・サッチャー)、オリヴィア・コールマン(キャロル・サッチャー、マーガレットの娘)、他
公式サイト映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』公式サイト || 大ヒット上映中!!
制作英国(2012年3月16日公開)
劇場新百合ヶ丘:ワーナー・マイカル・シネマズ

実話ものは、今年でいえば「J・エドガー」がそうであったように、背景知識がないと話についていくのが大変だが、実はサッチャーのことはまんざら知らなくもない。というのは、以前勤めていた会社が、もともとはイギリスの国営企業だったのだが、サッチャー政権下で民営化されたからだ。

僕が入社した時は既に民営化されたあとだったが、上司がお客様に会社紹介をする際に「例のサッチャー政権の時に……」とたびたび言っていたため、「例の」と言われるような時代だったのかと思って調べてみた。名前くらいは知っていたが、何をした人か知らなかったのだ。それで、彼女が初の女性首相であること、慢性的な赤字に苦しむ英国の財政を立て直したこと、そのためにとった政策が、多くの国有企業の民営化であり、規制緩和であり、所得税法人税の引き下げだったこと、ただし失業率は減少しなかったこと、抵抗勢力であった労働組合の改革を行なったこと、強烈で戦闘的な性格から「鉄の女」と批判されたが、本人がこの呼び名を気に入ったため、彼女の代名詞として定着したこと……などを知った。

僕がその会社で仕事をしていたのはブレア首相の時代だが、たまにサッチャーの話題になることもあった。イギリス人にとっても評価の分かれる人のようである。

映画では、彼女が政治家としてバリバリ仕事をするさまを描いているのかと思ったが、少々視点が違った。映画には3人のマーガレットが出てくる。若き日のマーガレット、現役政治家のマーガレット、そして――老いた現在のマーガレット。若年のマーガレットはアレクサンドラ・ローチが演じるが、あとの二人はメリル・ストリープが演じる。首相時代のマーガレットは54歳〜65歳でメリルは62歳。だからこの時代が実メリルに近い。

本作の主人公は老いたマーガレットである。知らなかったが、今世紀に入ってから認知症をわずらい、夫が死んだことも理解できなくなっているらしい。かつてこういうことのあった人が今はこう、というように、若き日はもちろん、バリバリの政治家時代も「過去の出来事」として描かれる。時の流れは残酷だが、世話する人もおり、娘も頻繁に顔を出し、不幸とはいえない。それに、亡き夫に対しても一貫して愛情を持ち続けている、という描き方はすごくよかった。

この老境の、切なくも愛おしいマーガレットを演じるメリルが絶品である。メリルの最高傑作といっても過言ではないだろう。

日本語タイトル

原題は「The Iron Lady」なのに、日本語が「鉄の女の涙」となんで「涙」なんかが勝手に追加されているのだ。「鉄の女」でいいのに。こういう余計なことは誰が考えるのか。

箴言

エントリの題はマーガレット・サッチャーの言葉

言ってほしいことがあれば、男に頼みなさい。やって欲しいことがあれば、女に頼みなさい。

If you want anything said, ask a man. If you want anything done, ask a woman.

より。「マーガレット・サッチャーの名言 格言|言いたいことは男に頼み、やりたいことは女に頼め」によれば「男性には強力な発言権があるが、女性には高い実務能力あるという意味合い」とのことだが、むしろ、偉そうなことばかり言うくせに何も行動しようとしない男性に対する強烈に皮肉だと思う。

Academy Award

第84回アカデミー賞において主演女優賞(メリル・ストリープ)およびメイクアップ賞を受賞。現在の老境にあるマーガレットの姿は、演技力もあるがメーキャップの力も大きい。この二つの受賞は当然だろう。

Iron Lady

Iron Lady

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