第7週まとめ
寅子は花岡に好意を感じていただろうが、それは級友としてであって、それ以上のものはなかったはず。だから、花岡から「二人だけで祝いたい」と言われたら「なんで?」と思うし、佐賀へ行くと聞いても「花岡さんがいなくなると寂しくなる」とあっけらかんと言い、「花岡さんがいなくなったら私はどうなるの!?」とは思わないし、花岡が別れがたく感じて「駅まで送る」と言っても、「事務所へ寄るから、ここで別れましょう!」と答える。すべては符合している。
では花岡に会うためにワンピースをせっせと縫い上げたのはなぜかということになるが、ひとつは母はるや花江にけしかけられたから。そして、「お祝いだから、多少はおしゃれして行かないと申し訳ないかな」と考えたから。そう解釈すればおかしいことはない。
しかし、轟とよねは、なぜか花岡と寅子は将来を約束していたと思い込んでおり、しかも花岡は、「正式に婚約したわけでもなんでもない」と嘯いて婚約者を連れて来るなど、寅子を一方的に振った、と解釈しているようだ。そこがさっぱりわからない。たとえ、はたから見ていて「あの二人は結婚するつもりなのかな」と思えるような雰囲気だったとしても、何の裏も取らずに花岡を責めるとは、仮にも弁護士を目指す人間の取る態度かと思う。
また花岡は花岡で「猪爪に、弁護士の道を捨てて佐賀に来てくれと言えるか? 俺にはできない」などと、まるで自分の都合で身を引いたかのような説明をしていたが、これは彼が自分に都合よくストーリーを組み立てただけで、現実には、もし花岡が結婚を申し込んでも、寅子から断わられただろう。あの日、花岡が寅子にプロポーズしなかったのは、決して寅子の将来を考えたわけではなく、自分が寅子から(結婚の対象としては)まるで相手にされていないことを痛感したからではないか。花岡は振られたのだ。そんな花岡を責めるのは、傷口に塩を塗り込むようなものだ。あの時はさすがに花岡に同情した。
ただし、単に二人の暴走で片付けるわけにもいかないのは、花岡が婚約者を紹介した時に、猪爪が動揺したことだ。これはいったいどう解釈すればいいのか?
寅子は花岡を結婚相手とは考えていなかった。だから花岡が誰と結婚しても、それ自体はどうでもいい。ただ、高等試験に自分より一年早く合格し、司法修習も終え、その後の試験もパスして裁判官への道を歩み始めるなど、順調にキャリアを築いている花岡が、今度は結婚する。どんどん上に登っていく様子が、先が見えずにもがいている寅子には眩しく感じられたのだ……とでも考えるほかはない。
仮に、寅子が花岡との将来を意識していたとしても、花岡が東京を離れてから婚約者を連れて上京するまで、二年が経っているのだ。問題にするなら、その二年間に何も言ってこなかったことだろう。婚約者を連れて来たことではない。
この二年間に二人の間にどういうやりとりがあったのか、なかったのか、それはわからない。しかし何も描かれなかったということは、何もなかったということだろう。もしかしたら佐賀に着いたあと、一度くらいは近況報告の手紙を書いたかも知れないけど。二年どころか、一年も何も言ってこなければ、この人にとってもう私はどうでもいいのだ、私のことなど忘れたのだ、と解釈するしかない。ならば、私の方もあの人のことは忘れよう、そう決意してさらに一年。今さら婚約者がいたとしても何も感じないはず。
その後の寅子の結婚したい症候群は、必ずしも仕事のことだけでなく、花岡のことが糸を引いているようにも見える。まあ、最終的には優三と収まってくれたので良かったが、優三にはかなり失礼な態度を取っているので、その点も気になると言えば気になる。優三は怒らず受け入れるだろうけど。
花岡の態度は一貫していてブレがない。そんな花岡は、人様から後ろ指を差されるようなことは何一つしていないと、声を大にして言いたい所以である。
