窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

仕事か正義か……「ザ・イースト」

題名ザ・イースト(THE EAST)
監督ザル・バトマングリ
脚本ザル・バトマングリ、ブリット・マーリング
出演ブリット・マーリング(ジェーン/サラ)、アレキサンダー・スカルスガルドベンジー)、エレン・ペイジ(イジー)、他
公式サイト映画『ザ・イースト』2014年1月31日[金]より全国順次ロードショー
制作USA(2014年1月31日日本公開)
時間116分
劇場新宿シネマカリテ

内容紹介

テロからクライアント企業を守る会社に採用された元FBIエージェントのジェーンは、環境テロリスト集団「イースト」への潜入捜査を命じられる。が、彼らと行動をともにし、大企業の不正と被害者の悲劇的な実情を知るうちに、彼らの信念に共感を抱き始める……。

雑感

今までにないタイプの社会派作品。スパイとして行動するうちに少しずつ彼らに共感し、仲間意識を持つようになっていく過程を緻密に描いている。

個人的な思想信条と会社の業務が対立するケースは、僕の場合も少なくない。そうした場合にどういう行動を取るか、これはなかなか難しいところだ。特に今回のように「イースト」の行動が反社会的である場合はなおさらだ。が、が、単なる署名活動などではどうにもならないほど酷いことをしているのは企業の側なのだ。

ラスト、名簿を手にしたジェーンが、ベンジーとも別れ、一人で何をしているのか意味がわからなかった。恐らくこの作品の肝と思える部分なのだが。

今日の英語

  1. Mackeben Gray is not my client.(マケーブ・グレイは顧客じゃないわ)

潜入捜査中のジェーンから、現在テロ活動中でマケーブ・グレイが危ない、と報告を受けた上司が答える場面。顧客じゃないからテロ阻止に動かなくていい、という理屈。ビジネスマンとしてはかくあるべきかも知れないが、こうした上司の態度もジェーンの「イースト」への傾倒を後押ししたような……

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何度も泣かされた。「銀の匙」

題名銀の匙 Silver Spoon
原作荒川弘銀の匙 Silver Spoon」(漫画)
監督吉田恵輔
出演中島健人八軒勇吾)、広瀬アリス御影アキ)、市川知宏駒場一郎、アキの幼馴染)、中村獅童(中島、教師・馬術部顧問)、吹石一恵(富士、教師・豚舎棟管理)、上島竜兵(校長)、吹越満(勇吾の父)、竹内力(アキの父)、石橋蓮司(アキの祖父)、哀川翔(アキの叔父、調教師)、西田尚美(一郎の母)、黒木華南九条あやめ、アキの幼馴染)、安田カナ(タマコ、勇吾・アキのクラスメート)、前野朋哉(小野寺)、矢本悠馬常盤恵次、クラスメート)、岸井ゆきの吉野まゆみ、クラスメート)、他
公式サイト映画『銀の匙 Silver Spoon』公式サイト 2014年3月7日公開
制作日本(2014年3月7日公開)
時間110分
劇場TOHOシネマズ渋谷

内容

中高一貫進学校に進学した八軒勇吾は、競争についていかれず落ちこぼれ、両親(父親)との関係もうまくいかず、全寮制だ(家を出られる)というだけで大蝦夷農業高等学校(エゾ高)への進学を決める。が、エゾ高の生徒は酪農業の家の子がほとんどで、農業経験皆無で将来の夢もない八軒は、エゾ高の中でも浮いた存在になってしまう……

雑感

農業のことを何も知らない八軒が、当初は「農家の子どもは就職に困らないから楽でいいな」などと人の神経を逆なでするような発言(と態度)を連発して反感を買うものの、実習や友人との付き合いを通じて徐々に世間を知り、成長していくという鉄板ともいえる展開だが、結構泣かされた。

学校が飼っている豚に名前をつけようとしたり、特定の豚を可愛がったりする態度には、周囲が「産業動物はペットじゃない」「いい加減にしろ」と腹を立てるが、八軒は単純に友人や先生の言うことに従わず、自分の気持ちに折り合いをつけるため、最後まで自分のやり方を通す。可愛がっていた豚の肉を小遣いをはたいて自分で買占め、一人でそれをベーコンにし、完成したところでクラスメートに振る舞う、という決着のつけ方は最終的に周囲からも受け入れられる。

高いお金と手間をかけてベーコンを作ったのだから、このバーベキューでは会費を取るか、せめて寄付を集めればよかったのに、とその時は思ったが、このベーコン(の投資)が最後に大きく利子をつけて返ってくることになる。こういうストーリーも青春もの、学園ものでは鉄板だが、やはり泣かされた。

僕を含め、世の中の多くの人は酪農の実態を知らないと思うが、そういう様子を割に克明に映してくれたのも興味深かった。映画の魅力のひとつは「知らない世界を知る」ことになると思うので。記録映画ではないから、あまりグロなシーンはなかったものの、豚の解体シーン(つまりは殺される場面ということだ)や牛の出産シーン、それから牛の肛門に手を突っ込んで(検査のため?)牛のウンチを浴びる場面とか、役者もスタッフもかなり真面目に酪農に向き合っていることが窺われた。撮影はたいへんだっただろう。

配役

  • 中島健人、19歳。広瀬アリス、19歳。市川知宏、22歳。黒木華、23歳。主役の二人はともかく、市川や黒木が高校生役で出てくるのはちょっと無理がありはしないか。
  • 石橋蓮司って、ヤクザ以外の役もできるのね。優しそうなお爺さんで。いいじゃないか、石橋に合っている。
  • 西田尚美が最後までわからなかった。「赤い指」でわが子の殺人を隠ぺいしようとする母とか、「真夏の方程式」でユスリを企むホステスとか、性格の歪んだ女のイメージが強かったが、本作では全然違う。苦労を重ねて(借金も重ねて)農業経営を営むが、ついに破産。家が人手にわたるも、息子が親孝行に育ったから「私は幸せだ」とつぶやく……。顔中に苦労がにじみ出ていたあのオバサンが西田尚美だったとは。
  • 広瀬アリスは新人かと思ったが、映画もテレビドラマもかなり出演経験がある。ちょっと長澤まさみに雰囲気が似ているが演技力は比較にならない。将来に期待。

その他

本日封切。高校生の観客が多いのが目立った。

余命30日と言われ7年生きた男「ダラス・バイヤーズクラブ」

シネマートに移動して「ラヴレース」を観るつもりでいたが、劇場で「ダラス・バイヤーズクラブ」を上映していることを知り、急遽変更。

題名ダラス・バイヤーズクラブ(Dallas Buyers Club)
監督ジャン=マルク・ヴァレ
脚本ザル・バトマングリ、ブリット・マーリング
出演マシュー・マコノヒーロン・ウッドルーフ)、ジェニファー・ガーナー(イヴ・サックス、医師)、ジャレッド・レトレイヨン、ロンのパートナー/トランスジェンダー)、他
公式サイト映画「ダラス・バイヤーズクラブ」公式サイト
制作USA(2014年2月22日日本公開)
時間117分
劇場新宿シネマカリテ

内容紹介

ロンはロデオと酒と女を愛する(そして同性愛者を忌み嫌う)テキサス男。ある日突然倒れ、病院へ収容されると、HIVに感染していること、余命が一ヶ月であることを告げられる。

生きたい、と強く願ったロンは、自力で病気について猛勉強を始め、未承認薬を処方してもらうよう頼み、断わられると、自らメキシコへ出かけ、直接購入するという行動力を示した。

その頃、アメリカではAZTという薬が推奨されるようになる。が、この薬は副作用が強い。ロンが持ち込んだ薬はアメリカでは未承認だが効果が高い。そこでその薬をほしがるHIV患者に配布するためのシステムを構築する。それが「ダラス・バイヤーズクラブ」だった。

しかし、AZTを推奨する医師、製薬会社、そして政府が、さまざまな形でロンの妨害を始める……

雑感

丸山ワクチンの話を思い出した。丸山ワクチンに本当に薬効があるのかどうか、僕は知らない。が、現在一般的な抗癌剤に比べると少なくとも副作用がはるかに少ないと言われる。が、さまざまな政治的な理由で丸山博士は疎外され、いつまでたっても薬として認められない……

医師から余命数ヶ月と告げられても、その後数年生きる例はいくらでもあるので、「医師の宣告した余命を大幅に超えて生きた」ことをもって、医師の言う通りにしていたらあっさり死んでしまった、自分で薬を探し、生きる道を探したから何年も生きられたのだ、とただちに結論づけるのはどうかという気はする。また、HIVは新しい病気であり、医師の診断や薬などに不十分な点があっても、責めることはできない。

それでも、主人公の「生きたい」とするバイタリティと、HIV感染が明らかになってからも変わらない無頼の日々が魅力、ということになるか。

「7年も生きた」というが、たった7年しか生きられなかったんだなあ。

今日の英語

  1. One left.(残り一本)

Academy Award

第86回アカデミー賞で主演男優賞、助演男優賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞の3部門獲得。

その他

この作品も実話に基づく話なのだそうだ。最近は実話ベースの作品が多い。それ自体は悪くないが、実話だから感動する、実話だから説得力があるなどと殊更に強調するのは空想物語の否定につながるわけで、あまり面白くない。

それにしても、日本の映画会社は「A true story」をなんで「感動の実話」と訳すのかね?