窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

やっぱり面白いな「おかえり、はやぶさ」

もうはやぶさはいいか、とも思ったのだが、やはりひとつだけ観ないままというのも気持ちが悪い。というわけではやぶさ映画4本とも制覇。観ればやっぱり面白い。3Dでやっているものは基本的には3Dで観たいのだけど、時間が合わなかったこともあり、本作は敢えて3Dでなくてもいいだろうと、2Dで観た。

題名おかえり、はやぶさ
監督本木克英
脚本金子ありさ
出演藤原竜也(大橋健人、JAXAエンジニア助手)、杏(野村奈緒子、JAXA理学博士)、三浦友和(大橋伊佐夫、のぞみプロジェクトマネージャー、健人の父)、宮崎美子(大橋小夜子、伊佐夫の妻)、前田旺志郎(岩松風也)、森口瑤子(岩松多美、風也の母)、田中直樹(岩松大吾、風也の父・JAXA職員)、竹山隆範(天野克也、臼田観測所職員)、豊原功補山田幸一、イオンエンジンチームリーダー)、大杉漣(江本智彦、はやぶさプロジェクトマネージャー)、中村梅雀(増沢公孝、JAXA対外協力室長)、他
公式サイト『おかえり、はやぶさ』映画オフィシャルサイト
制作日本(2012年3月10日公開)
劇場新百合ヶ丘:ワーナー・マイカル・シネマズ

感想

はやぶさ最後の映画。なるほど描き方はいろいろあるものだと思った。これまでの映画とはかなり趣を異にしている。

  1. 20世紀FOXの「はやぶさ/HAYABUSA」では、竹内結子狂言回しに使い、川口淳一郎(役の佐野史郎)、的川泰宣(役の西田敏行)、國中均(役の鶴見辰吾)らが比較的均等に描かれていた。東映の「はやぶさ 遥かなる帰還」では川口淳一郎役に渡辺謙を起用、彼が完全なる主人公であった(國中均役の江口洋介も存在感あったけど)。本作の主人公は、なんと火星探査機のぞみのプロジェクトマネージャーだった三浦友和である。
  2. はやぶさ/HAYABUSA」はプロジェクトが動き出した時からスタート。「はやぶさ 遥かなる帰還」では打ち上げからスタート。本作では、なんと46億年前からスタート。
  3. はやぶさを打ち上げたのはISAS宇宙科学研究所)で、のちにNASDA宇宙開発事業団)、NAL(航空宇宙技術研究所)と統合されJAXA宇宙航空研究開発機構)になった。これまでの映画では最初にISASが登場し、知らないうちにJAXAに変わっていたのだが、本作ではISASの名は登場しなかった。
  4. はやぶさ映画唯一の3D。僕が観たのは2Dだが。

はやぶさ/HAYABUSA」「はやぶさ 遥かなる帰還」とも、のぞみプロジェクトのことは触れてはいるものの、「失敗は繰り返せない」「のぞみの無念をはやぶさで晴らす」程度の扱いでちらりと出てきただけだったが、本作ではプロジェクトマネージャー役の三浦友和を登場させ、さんざん批判を浴びて傷つき、JAXAを退官になるといっさいの仕事を断わって自宅に引きこもる姿を描く。

その息子である藤原竜也は、そういう父の姿を腹立たしく、情けなく思っているが、本当は父に憧れ、父を尊敬し、自分も父のようになりたくてJAXAに入り、はやぶさプロジェクトで頑張っているのだ。はやぶさが帰還した時、さんざん父親に反抗してきた息子が、ひとこと「ありがとう、俺をここに連れてきてくれて」とつぶやく。この藤原竜也が本作の主人公になるのだが、残念ながら(?)存在感では三浦友和が圧倒的に上。「のぞみ、宇宙のゴミと化す」と書かれた新聞記事を息子に見せ、「人生の大半を費やしてきたことを、ゴミと書かれてしまうような……そんな思いはもうたくさんだ!」と吐き捨てる場面などは鬼気迫る迫力があった。

そんな三浦の心を溶かしたのは新米理学博士の杏。「私がこの道を目指す決意をしたのは、高校時代に先生の講演を聞いたからです……また同じように子供たちに話をしてほしいんです」といって頑なに拒否していた講演を引き受けさせてしまう。その頃から徐々に三浦は変わりだし、JAXAへも顔を出すようになる。大杉漣がアドバイスを求めると、「マネージャーが注意するのは、どうやって予算を確保するか、これは中村梅雀君に任せるとしても、あとはメンバーの士気をいかに鼓舞し続けるか、……」などと細かく説明。

科学の実験に、100%の成功なんてなかなかない。同様に、100%の失敗もない。最終的に期待した成果が得られなかったとしても、その経験やそこで培った技術を次に生かすことで、長い目で見ればそのプロジェクトは十分成果をあげたといえる。また、そのように受け継いでいくべきものでもある。この映画は、そこを訴えたもののように感じられた。そういう意味ではいい視点だった。

しかし、現実ののぞみのプロマネが誰だったのかは知らないが、その人はその後引きこもりになったのか? その人の息子がJAXAで、はやぶさプロジェクトに関わっていたのか? 映画だから多少話を作る部分があってもいいとは思うが、中心となる人物が史実かどうかわからないというのは疑問に感じなくもない(事実だったらごめんよ)。

また、前2作と同様、ここでもJAXA職員の岩松大吾の妻が脳腫瘍で明日をも知れない身体となり、子供の風太に「ダメだから諦めて次、なんて簡単には言えないよ」と言わせたりする演出があった。長い年月のプロジェクトで、大勢のメンバーが関わっていただろうし、それぞれのメンバーはそれぞれの人生を背負っていただろう。そうした思いも込められていると言ってしまえばそうですねとしか言いようがないが、あまり科学技術に関係のない話を過度に描くのもどんなものかとは思った。まあ、一般向けの娯楽映画とする以上、ある程度は避けようがない部分なんだろうな。

JAXAの職員がたびたび子供たちに向けてはやぶさのプロジェクトや、宇宙の仕組みについて説明会を行なう場面を映していたが、これは視聴者に対してもいい説明になっていた(そのために入れたのだろうが)。これはなかなかうまい手法だ。ただ、ある会場で「こんなことにお金を遣うなら、福祉や教育にお金をかけた方がいいと思います」と言われて絶句するシーンがあったのはいただけない。ちゃんと反論するところまでやってほしかった。

ラストで、中村梅雀がどこかのテレビ局のインタビューを受けていて、「今回のプロジェクトには『世界初』がいくつもありまして……」との説明に対し、インタビューアーが「やはり2番ではダメってことですか」と言っていたのが印象的。ギャグで出したのか、批判のつもりだったのか意図が今一つ不明だが、もともと国威掲揚のために作った映画だろうに、与党の批判をぶちかましていいのか!?

配役

豊原功補が妙にとぼけた風体で、存在感を醸し出していた。