窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

松井玲奈主演「gift」

rose_chocolatさまのお薦めなので、さっそく観に行ってきた。なかなか良かった。

題名gift
監督宮岡太郎
出演遠藤憲一(篠崎善三、実業家)、松井玲奈(山根沙織、キャバクラ嬢)、石井貴就(山根高弘、沙織の弟)、柿澤勇人(千葉一郎、取り立て屋)、佐伯新(池端ヒロシ、(元)下宿屋の経営者)、西丸優子(池端郁代、ヒロシの妻)、尾本貴史(テアトル石和の支配人)、他
公式サイト映画『gift』オフィシャルサイト
制作日本(2014年7月12日公開)
時間91分
劇場シネマート新宿(スクリーン1/335席)

内容

篠崎善三は貧しい暮らしから一代で事業を成功させ、財を成した人物。足が悪い。家族はいない。短気で、傲慢で、お手伝いさんや秘書なども、気に入らないことがあったので全員クビにしてしまった。

山根沙織はキャバクラで働いているが、手癖が悪く、同僚のブランドバッグを盗んだり、果ては窃盗や置き引きまでも繰り返す。実は元彼が300万もの借金を残して蒸発してしまい、保証人になった沙織が返済しなければいけないのだ。千葉一郎は毎日沙織の店に来ては執拗に催促をし、逃げたら弟のところに行くと脅し、ソープランドで働けと迫る。

沙織の母はシングルマザーで、男の出入りが激しく、酒浸りで、子供にろくに食事も与えず、子供(特に高弘)への虐待を繰り返していた。ある日、高弘を叩き続ける母を止めようとして沙織が母を刺してしまう。さいわい命に別状はなかったが、この件で沙織は少年院へ入院することとなり、復帰してきた時は、母は酔って自動車に轢かれ死んでいた。弟の高弘は虐待されてもそれでも母のことが好きで、このような事態になったのはすべて姉のせいだと思い、現在は縁を切っている。沙織は高弘に愛情は感じているが、自分は前科者であるし、これ以上高弘に迷惑はかけたくないと思っている。

そんな矢先、沙織は篠崎の鞄をかっぱらおうとして逆に捕まってしまう。篠崎は「お前の100時間を100万円で買ってやる。嫌なら警察へ行く」と告げ、時給1万円なんていかにも怪しいが、警察に行きたくない沙織はしぶしぶ承知する。

篠崎は、かつて結婚していたことがあり、娘もいるが、仕事が忙しくなると家族が煩わしくなり、一方的に家族を捨て、以後30年、音信不通だった。が、最近になって娘から手紙が届き、30年ぶりにプレゼントを渡そうと東京にいる娘に会いに行くことにしたのである。また、それまでにいろいろ寄りたいところもあるが、篠崎は足が悪いため、運転手兼荷物持ちが必要だというわけだ。

こうして奇妙な二人組の旅が始まる……。

雑感(後半ネタバレあり)

ストーリーがそれなりにちゃんとしていて、映画としてまともだったので楽しめた。

映画に限らないが、世間の評判と自分の好みが一致するわけではないので、自分が映画を観ようと思う時に世間の評価を気にすることはあまりない。同様に、人から「ぜったいお薦め」のように言われても、大概は聞き流す。僕の趣味や性格を知りぬいた上で薦めてくれるなら別だが、普通は単に「面白かった」と同義に使われているだけだと思うからだ。

しかし今回はrose_chocolatさんが「『gift』がおすすめです。これはよい」とコメント欄に書いてくださり、なんとなく「観てみようかな」と思った。上映館が少なく時間合わせには手間取ったが、とにかく観て、結果的に「面白い」と思えた。これは自分にとって非常に貴重な体験だった。

観ようかどうしようか迷っているものの背中を押されることはあるが、この作品に関していえば全くその存在を知らず、rose_chocolatさんに言われなければ一生観ることはなかったと思うのだ。こういう出会いもあるのだなあと。

しかし、前田敦子は顔を知っていた(太河ドラマに出ていたから)。指原莉乃秋元才加は顔はわからなかったけど名前は知っていた。今回主役の松井玲奈は、名前も初めて。AKBの子ではないんですね。

興味深いと思ったのは、この二人の異質な組み合わせ。今回のような「事件」がなければ決して出会うことのなかった二人が結びついたが、実はこの二人、我が強いことと心に傷を抱えていることという共通点もある。

最初は強面で登場した篠崎だが、御神籤で「大吉」を引いた時の嬉しそうな顔や、道を間違えたりするドジな点に、だんだん親近感を抱く。反発と警戒心でいっぱいだった沙織がだんだん篠崎に心を開き、お金以外のつながりができていくのが見所だ。篠崎も、今の篠崎の抱える状況という問題もあるけれど、沙織と出会ったことでどんどん変わっていったのではないか。恐らく、こんな風に人と付き合えば、家族も、友人も、できていたんだろうなあ、と内心思い始めたに違いないのだ。いや、最後に沙織と交流が出来て、それだけでもよかったと思っているだろうか?

気になったこともある。

ロードムービーと喧伝されていたが、まあロードムービーではあるのだろうが、出発点がどこかわからなかったので魅力が半減。あとで説明を読んで、どうやら愛知らしいとわかったけど、それ、作中で描写があったかな?

篠崎は一代で事業を成功させ、財を成した人物と描かれたが、とてもそうは思えない。貧相な親父だ。たとえ性格に少々難があったとしても、事業を成功させる人物は、それなりのオーラと、人を惹きつける魅力があると思う。それがなければ仕事がうまくいくはずがない。たまたま不動産の販売で大金を得た成金みたいな感じだった。それはそれで物語的には合っていたようにも思うけど。

沙織が、頭ごなしに物を言う篠崎に反発し、「もういい、やめる」と何度か言い出すのが残念だった。彼女は喉から手が出るほどお金がほしい。このアルバイトを断われば借金返済の目途は立たず、そうなれば絶対に迷惑をかけたくない弟のところに取り立て屋が行ってしまう(既に行っている)。あとは取り立て屋の指示に従って風俗の仕事をするしかなかろう。

もう風俗でもなんでもやる、と腹を決めたのかも知れないが、そこまで腹をくくったのなら、少々の篠崎のわがままに腹を立てるのも変である。単に遊ぶ金がほしいのではなく、もっと切羽詰った状況のはずだが、イマイチそれが表現されていなかった。そこの緊迫感があればもっと面白くなっていたのではないかと思う。

篠崎の最期はなるほどと思った。自殺をすれば、沙織や、娘や、周囲の人に迷惑をかけてしまうが、殺されたのであれば、そういう意味で迷惑をかけることはない。また犯人の千葉一郎はそれなりの刑罰を食らうだろう。彼のような人物は恐らく余罪がかなりありそうだから、簡単には出てこれないだろう。これで沙織がつきまとわれることはなくなり、万々歳、ということなんだろう。

しかし、心臓を残すことが重要なのに、ナイフで刺されて心臓に傷がついたら元も子もない。また、心臓以外の内臓を刺しても、人は簡単には死なない。そういう意味ではこの結末はちょっとリアリティに欠ける。金属バットか何かを振り回し、それが頭にモロに当たって……とか、ここはあとひと工夫の余地があったのではないか。

その他

もらとりあむタマ子」「薔薇色のブー子」なんかもそうだけど、本作もいわゆる大作ではない。AKBといえば絶大な人気を誇るアイドルグループなのに、その主力メンバーが主演する映画が、こういう地味な(しかし、それなりに内容のしっかりした)作品というのが、意外というか不思議である。

劇場

初めてのつもりだったが行ってみたら覚えがある。調べたところ、3月に「ラヴレース」をここで観ている。そういえば確かにそうだった。

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