窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

肝心なことをちゃんと描いてほしい。「花燃ゆ」第7話「放たれる寅」

なんだかもういいや、という気になって、放映日には見ず、脱落しかけたが、やっぱりせっかくなのでと思い直し、タイムシフトが消える前に慌てて視聴。

悪くない。50回の中にこういう回が一度や二度あっても、悪いことはない。しかし、いいところも見当たらぬ。

出演

粗筋

文は、なんとか寅兄を獄から出してあげたいなあと考えている。

寅次郎は「福堂策」という建策書を執筆し梅太郎に預ける。梅太郎は囚人が政に口をはさむなど言語道断と、握り潰すことに。が、文はこっそりその内容を書き写し、伊之助に見せる。中を読んだ伊之助は、寅次郎は長州藩に欠かせぬ人物だと改めて考え、それを桂小五郎に見せる。恐らく桂から水戸のご老公に渡り、水戸では「長州藩は、幕府が許した人物をなぜいつまでも獄につないでおくのか」という疑問の声があがっているとの噂が伝わる。ついに寅次郎は出獄を許され、自宅にて蟄居を命じられることとなった。

が、肝心の寅次郎は終生獄で暮らす考え。「福堂策」は「獄でさえ改めれば人を善に導く福堂となすことができる」と説いたもの、そう説いた本人がここを出ては論が絵空事になってしまうというのだ。当初、出獄を促すために訪れた家族に対し「寅次郎を連れて行くな」と騒ぎ立てた囚人たちも、寅の決意を聞いて、彼はいつまでもここにいるべき人間ではないと悟り、「獄囚が真に更生したかどうかは、獄を出なければ分からん。ここを出てここで学んだ事が世に活かされて初めて、この獄は福堂であったといえるのではないか」(大深虎之丞)と言って寅次郎を送り出す。

獄を出た寅次郎は、迎えに来た伊之助と文に対し、自分は21回猛々しいことをすると宣言。「脱藩し、建白書を送り、密航を企て、まだ足りんのか?」と呆れる伊之助に、「それで3回だな、あと18回だ」と答えるのだった。

今日の梅太郎

寅次郎の面会に行くたびに、美貌の高須久子が気になって仕方ない様子。しかしそんな気持ちは妻の亀にすっかり見抜かれていた。

今日の寿

夫に「なぜ兄上のためにそこまでされるのですか?」と尋ねると、伊之助は「あいつを見ていると、わしも頑張ろうという気持ちになるんじゃ」と答える。寿は「旦那様には私がおります。この子もおります」と詰め寄る。

椋梨藤太

もともと吉田寅次郎のやることに批判的で、今回も厳しい処分を下すべきだとする派の中心人物だったはずだが、伊之助の減刑嘆願運動に気づいていて、やり方を遠まわしに示唆したりする。またダイレクトには描かれなかったが、最終的に敬親に減刑を進言したのは椋梨藤太だったと思われる。実はいい人だったのか? 何か裏があるのか?(伏線ぽくもあり、そうでなさそうでもあり)

雑感

寅次郎を獄から出すまでの経緯は悪くなかった。まあ、梅太郎の浮気心も伊之助・寿の夫婦関係の描写もいらないし、殿が自宅蟄居を命じているのに獄から出ないというのも変だが、そのあたりは片目をつぶってもいい。

今回の肝は、寅次郎が娑婆に戻ってきたことである。その寅は、過去の行為を反省するどころか、あと18回も同様の行為を繰り返すと恐ろしいことを宣言しているのである。では、寅次郎はなぜ、命の危険を顧みず、家族に迷惑をかけてでも、こうした「猛々しいこと」をしようとしているのか? これが大事なのに、そのことに関する説明が全くなかった。

本当は、ここに至るまでに十分な説明がなされているべきである。なぜ黒船がやってきたのか。なぜ黒船を見て、多くの人が大慌てしたのか。黒船に対して、幕府はどういう対応をしたのか。西欧列強は、今後日本をどうしようと考えているのか。これまでに成されていれば、今回くどく繰り返すには及ばない。が、初回から今回に至るまで、これに関してまるで説明がない。だから寅次郎の怒りや焦りが全く伝わってこないのだ。物語の前年に日米和親条約を締結したことが、伊之助の桂小五郎への手紙の中でさらりと触れられていたが、それだけ。どういう経緯で結ばれた、どういった内容のものかはスルー。

だから伊之助が「長州藩にも反射炉を作り、西洋船を作らなければならない。そのためには洋学校が必要だ」と叫んでも、寿ならずとも、この人なに一人で熱くなってるの? そもそも反射炉ってなんなの? 莫迦なの? 死ぬの? としか思えないのである。

別にホームコメディをやっても、学園ドラマをやってもいいと思う。しかし時代劇である以上、その時代の事情を視聴者にきちんと伝えた上での話だろう。ここをしっかりと描かないと、これから先長州藩が倒幕活動を開始しても、単なるテロでしかないことになってしまう。まあ、どんな大義名分があったってテロはテロなんだけれども。

1855年における満年齢

役柄   役者  
杉文 12 井上真央 27
杉寿 16 優香 34
杉百合之助 51 長塚京三 69
杉梅太郎 27 原田泰造 44
吉田寅次郎 25 伊勢谷友介 38
小田村伊之助 26 大沢たかお 46
毛利敬親 36 北大路欣也 71

少子高齢化はここでも深刻なのだった。

その他

  • 野山獄では、吉村善作の音頭で句会が開かれる。寅次郎だけは知らされていなかったが、今回のテーマは「別れ」であった。順番に詠まれる歌を聞いている途中でその意図に気づいた寅が立ち上がって演説を始めるが……、みんな一人一人作品を作ってきたんだろうから、中断せず最後まで発表させてやれよ、と思った。
  • 文が「福堂策」を伊之助に見せ、それが回りまわって毛利敬親のところに届く、という手法はアリだと思った。4年前の大河なら、主人公ちゃんが殿様に会いに行っていただろうから。すべてを文の手柄にする必要はないが、このくらい趣向が凝らされているなら受け入れられる。

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