映画「容疑者Xの献身」をDVDで

プレミアム版を購入。

近年の邦画の中では出色の出来と思っており、繰り返し見たいと思えばこその購入だが、もうひとつ、楽しみなことがある。昨年、映画を劇場へ見に行った時はドラマの存在を知らなかった。ドラマを知っていればまた違った見方があるだろう、と思うわけである。エピソード・ゼロも見て、予習(?)はバッチリである。

ストーリーとして見ると、残念だったのは、湯川学が花岡靖子が犯人だと考えた根拠がまるで示されなかったこと。富樫慎二のような男はあちこちで恨みを買っている可能性があり、靖子に疑いがかかるのは仕方ないとしても、はっきりとしたアリバイがあれば、他を探すのが普通だ。これは「全く非論理的だ」。

このあと、事件はどのように推移するのだろう。湯川の推理を靖子が肯定したとしても、証拠がない。靖子が富樫を恐れ、逃げていたことは事実だ。その富樫を亡きものにしてくれた石神哲哉に恩義を感じ、恩人を救うために、靖子が嘘をついている、という解釈も成り立つ。むしろその方が自然だ。

スタッフロールが流れている時、花岡美里が実際に富樫を襲った時の凶器が発見されたようだったが、本物の富樫の死体が発見されない以上、それが凶器かどうかも断定できないはずだし、そもそもそれは致命傷ではなかったのだから、証拠にはならないはず。だから、最終的には石神の思った通りになるのではないだろうか?

さて、テレビドラマを踏まえた上で、気づいたこと。

内海薫と草薙俊平のキャラがかぶるなあ、と思っていたが、テレビ版では内海が湯川のパートナーだったのだから、仕方がない。むしろ、草薙を呼び戻す必要があったのかどうか。今回は草薙と内海がペアを組むため、なおさらだ。

もっとも今回は物理現象は関係がなく、内海お得意の「常識では考えられないような」で湯川を釣るのは無理がある。だから草薙に「容疑者は美人だぜ」と言わせたのかも知れない(エピソード・ゼロでも草薙は湯川をビキニの女の子で釣っていた)。内海は湯川が城ノ内桜子と親しく話をしていても焼き餅を焼くくらいだから、美人で湯川を釣ることはありえない。

後半、苦悩する湯川のもとを訪れた内海に、「刑事ではなく、友人として聞いてくれるか」と話しかける。内海のことを「友人」と呼び、かなりの信頼感をもっていることが示されたので、内海本人も、視聴者も、嬉しかったのではないか。

テレビ版を知らないと、弓削志郎と栗林宏美、城ノ内桜子の登場場面を見逃す。率直にいって、お三方ともたいした役ではないが、知っているとニヤリとする。弓削は、結果的に真相とは異なる方向で必死で捜査する(もっとも、これは弓削が間抜けなのではない。こうして可能性をつぶしていくことも大切な捜査のはず)。栗林は例によって、「先生、警察はどうでもいいから、実験やりましょう」とお得意のセリフを。それが功を奏さないのもお約束。城ノ内は、検死を行なうだけでなく、内海のおしゃべりに付き合う場面がある。「私目当てにここへ通ってくる刑事もいるからね」と堂々と言ってのけるあたりは、城ノ内桜子健在である。

湯川が真相に気づきかけた時に数式を書き連ねる「儀式」は映画では行われない。レギュラーのキャラも内海以外はほとんど出番がなく、内海もテレビ版ほど重要な役回りではない。使われる音楽も一新されている。ドラマとは違うスタンスでやっている宣言だろう。

ところで、普通はテレビドラマ放映後の視聴者の反響を見て映画化を考えることが多いと思うが、このガリレオシリーズは、原作があるせいか、テレビ本編を制作している段階で、既に映画化は視野に入っていたらしい。テレビが終了してからただちに映画制作に取り掛かっている。

映画とのつながりを考えると、テレビ版の脚本に対してさらに文句が出てくる。天才物理学者にライバル出現……というが、テレビ版では、田上昇一(香取慎吾)、木島征志郎(久米宏)と既にライバルが登場している。田上は一蹴したが、木島はかなりの難敵だった。

さらに、普段は感情に左右されることなく、冷静沈着に取り組む湯川が、はじめて感情をあらわにする……ともいうが、これまた、最終回の木島との対決でかなり感情的になっていることを内海に指摘されている。映画化まで考えているなら、こんな原作にないキャラを出してつまらない真似をさせることはなかった。

さて、本作で湯川が苦悩するのは、自分が真相をあばけば、石神の靖子に対する気持ち(自分の人生を賭けた大芝居)が無になってしまう。それで誰一人しあわせにはならない、じゃあ黙っているべきなのか……という気持ちと、石神がつかまり、刑務所に10年、20年と留置されれば、あたら天才を埋もれさせてしまうことになる、なんということだ……という気持ちが入り混じってのことだと思っていた。

が、スペシャルエディションについてくる特典ディスクに収録されている福山雅治のインタビューを見ていたら、面白いことを言っていた。というのは、湯川は将来を嘱望される物理学者であり、刑事事件も多数解決に力を貸し、この分野でも実績を積み重ねてきているが、湯川がここまでこれたのは、石神の存在が大きかったはず。湯川にとっては、自分がその才能を認める唯一の人物であり、彼との出会いは大きな意味を持っていた。

その石神がこのような事件を起こしてしまい、それは合わせ鏡のように湯川にも返ってきて、湯川としては自分がやってきたことに対して、全く自信が持てなくなってしまったんじゃないか――と。そういう見方はしたことがなかったが、鋭い指摘だと思う。さすがに湯川役をやっているだけある。

その湯川に、もう一度自分を取り戻させてくれたのが内海の存在だった、今や湯川にとって内海の存在は大きい、という福山説も納得。

容疑者Xの献身 スペシャル・エディション [DVD]

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