ようやくわかった「アルゴ」

題名アルゴ
劇場三軒茶屋シネマ

三軒茶屋シネマは、通常は1300円らしいんだけどこの時は1600円で、それはアカデミー賞受賞作の特別上映のため……ということらしかった。え、「人生の特等席」とは別に「アルゴ」を上映しているけど、それも観ていいんですか? いーんです! ……二本立て、らしい。なんか今どき珍しい映画館である。「アルゴ」ももう一回観たかったから、すごく嬉しかった。

二回観ると、さすがにいろんなことがよくわかる。

  • CAIは、近々に暴動が起きる恐れはない、と報告をしていたが、そんな矢先に大使館の占領事件が起きてしまった。救出作戦に入ってからもメンデスらの言い分が今一つ信用されなかった伏線になっているわけだ。
  • イラン側が大使館を襲ってきた時、当然、大使館の職員たちは身の危険を感じただろうが、なぜほとんどの人が逃げ出さず大人しく捕まったのか不思議だった。しかしイランは大使館という箱を占拠したいだけではなく、大使館職員も人質にしたかった。そして職員名簿と突き合わせ、欠けている人間を執拗に探した。逃亡=スパイだからで、見つかれば極刑は免れない。だから逃げ出した6人も(家には帰らず)別の国の大使館に助けを求めたのだ。さっさと逃げ出して家に帰ればいいというような呑気な事態ではなかったのだ。
  • 人質となった52名も、結局444日(約1年3ヶ月!)も拘束されたし、当然、その間の食事や風呂、睡眠、着替えなどの環境が素晴らしく快適なものであったとはとても思えない。亡くなった人はいなかったようだが、病気にでもなったら命取りだっただろう。それを考えると、残るのも命がけではあった。
  • 6名の中には女性が2名。助かった時に別の男性とずいぶんきつく抱き合って喜んでいたので、数ヶ月間の逃亡生活で仲良くなったとしても、仲良過ぎでは、と思ったのだが、二組は夫婦なのだった。
  • 若い夫婦のうち、一人の男が「妻を連れてくるんじゃなかった」というシーンがあるが、僕は夫婦で良かったんじゃないかと思う。もちろん、自分の身に万一のことが起きても妻の命は助けたいという気持ちはわからないではない。でも結婚して間がない時期で、夫婦の一方が生死不明の状況に陥ったら、もう一方は気が気じゃないだろう。一緒に行動していた方が、お互いの状態がわかるだけ安心できるのではないか。少なくとも、「あなたについてくるんじゃなかった」と言い出す女がいなかったのは良かった。
  • カナダ大使館ではサハルという現地の娘をお手伝いに雇っている。彼女には事情を知らせていないが、「お客様がずっと外出しないのは変だ」とつぶやき、事情を察していることがわかる。大使夫妻は「サハルは信用できない」と警戒するが、イラン軍が誰何(すいか)に来た時、嘘をついたら極刑だと念を押されたにも関わらず、嘘をついて客をかばう。最後、彼女がイラクへ移動するのは、雇い主が帰国して無職になったということもあるだろうが、嘘がばれたら彼女の立場も危ういから逃げ出したのだろう。
  • 作戦の中止命令が出て、メンデスがいったんホテルに引き上げる。翌日にはカナダの大使夫妻にも帰国命令が出ていたので、取り残された6人の命運はそれまでだった。この時のメンデスの葛藤を、僕はモロボシ・ダンの葛藤と呼んでいる。
  • 勇者メンデスも、私生活では妻子と別居中の、さびしい男だった。最後に、彼が妻の家に帰るところがいい。子供の部屋には「アルゴ」の絵コンテが飾られ、その後はずっと家族で暮らしていくことが示唆される。いいラストだ。

モロボシ・ダンの葛藤

ある人を助けようと思ってきたのだが、

  • 上司から「行くな」と命令された
  • 行けば、自分の命が危険にさらされる。行かなければ、少なくとも自分の命は守れる
  • 行ったからといって、彼(ら)を助けられる保証はない。ただし、行かなければ確実に彼(ら)は死ぬ

こうした状況で、あなたならどうするだろうか? あっさり「行くに決まっているだろ」と言う人は、事態を理解していないだけだと思う。誰だって、自分の命は惜しい。人助けも命あってのことだろう。モロボシ・ダンも悩んだ。メンデスも今悩んでいる。悩むから偉いのである。しかし、彼らは最終的に助けに行くことを選択した。だから勇者なのだ。

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