窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

NHK大河第22回「弟のかたき」

出演

粗筋

会津・山本家

最新の洋式調練を学ぶために江戸へ向かった尚之助。そこで覚馬・三郎の消息を聞き、会津に戻って家族に伝える。ただし覚馬は四条河原で処刑されたと噂になっており、山本家にはその噂がもたらされた。

権八「討ち死には武士の本懐、未熟者だけどもお役に立ったならば、三郎は本望だべ。覚馬は、無念であったべ。目を痛めたのが戦でなら、やむを得ねえ。両名とも、山本家の男として恥ずることはねえと存する。――息子たちの最期、確かめてくれて、ありがとうごぜえました」

静かに悲しみに耐えるうら、権八、佐久らだが、一人八重だけは激しく取り乱し、感情を爆発させる。なんだかんだ言って呑気な娘時代を過ごしてきた八重が覚醒する瞬間である。

八重「兄様は死んでねえ! 遺髪も何もねえんだから。尚之助様、教えてくなんしょ、三郎の仇を討つにはなじょしたらよかんべ? 仇は私が討つ」

江戸

西国諸藩は新政府に恭順の意を示してきた。では東国をどうするかである。政府軍は北陸道東海道東山道の三軍に分けて進撃、道中の諸藩を降伏させつつ江戸に向かった。そしてついに翌日に江戸総攻めを控えた日、総督府参謀・西郷吉之助のところに陸軍総裁となった勝安房守が訪ねてきた。世に名高い、無血開城に向けての西郷・勝の談判である。

「勝先生。陸軍総裁ともあろうお方が兵も連れずにおいでにないもしたか」
「単身乗り込むぐらいの胆がなけりゃ、総督府参謀とは渡り合えぬと思いましてね。危ないのはむしろ城に帰る道です。勝は徳川を薩長に売る気だと私の命を狙う者が大勢いる」
「物騒にごわすな」
「そりゃあ、あんた方が明日にも江戸城を攻め落とそうというのだからね」
「こいは朝廷よりの大号令にごわす」
「その戦、この条件で止めてもらいたい。慶喜公は隠居の上水戸で謹慎する。幕府に味方した諸侯に寛典を願う。武器軍艦は一部を残して引き渡す」
「そげな甘かこつは通りもはん。総督府には慶喜公の首をば討つべしちゅう者が大勢おっとごわす」
「西郷さん。くどくは言わぬ、もし薩摩が敗れていたら、あんたはご主君の首を討って差し出せるか? 万国公法では恭順した敗者に死罪を申しつける道理はありませんぞ! 嘆願お聞き届けいただけるなら、一身に代えて江戸城は無事に引き渡す。だが攻められれば、こちらも応戦するほかはない。その時は……この江戸市中は火の海になる! 考えてみてくれ、あの屋根の一つ一つ下には人間が住んでいるんだぜ。戦とは関わりのない、無辜の民だ。あんたが作ろうとしている新国家は、そんな人たちから家や命を奪うのか!? それがあんたの目指す国づくりか!?」

西郷はあっさりと総攻めを取りやめた。勝の説得に心を動かされたというより、江戸総攻めを行なえば、旧幕府軍も死に物狂いで抵抗するだろう、そうすれば政府軍も被害を蒙る。勝の交渉は政府軍にとっても渡りに船だった……というのが本作での解釈のようだ。そして西郷は不気味に呟く。「振り上げた拳をどこへ降ろすかじゃな……」。

その後、西郷の元に届いた嘆願書の中に「山本覚馬」の名を見つけた西郷は、牢まで会いに行く。覚馬は暗く、不自由な牢の中で、既にすっかり目が見えず、足の具合まで悪い様子。相手が誰だかもわからず、万国公法に則って会津の助命を願う覚馬に、西郷は「処刑は取りやめ、牢から出し、医者にみせてやれ」と命じる。

会津

あれほど帰国したい帰国したいといっても叶わなかった容保だが、都を追われ江戸を追われ、5年ぶりに会津の地に戻ってきた。家督を譲り、隠居・謹慎の身である。鳥羽・伏見の敗戦の責任は修理にはないことも、修理はすべてを飲み込んで黙って腹を切ったことも、容保が一人で責任を背負って耐えていることも、家臣には伝わっていた。

さて、これからどうするかである。家老に復帰した頼母はあくまで恭順を貫くべきとの考えだが、神保内蔵助は「敗れたままでは武士の一分が立たない」という。また若年寄となった佐川官兵衛は「戦いに勝てばよいのだ。勝てば官軍だ」と主張する。

容保「皆の考え、よくわかった。わしの存念を述べる。会津はあくまで恭順を貫く。もとより朝廷に刃向かう心はない。ただし! 攻めてくるならば、全藩をもってこれを戦う!」
頼母「戦をするには、あまりにも無勢でございます」
容保「これより軍制改革を行う! 逃げる場所はもうどこにもない。戦はこの会津で起こるのだ」

感想

  • まさか今回、西郷・勝の会見までやるとは思わなかった。この歴史的会見をここまであっさり描いた幕末ドラマは初めてなのではないだろうか(笑)。タイトルにすら出てきていないし。本作においては、江戸総攻めの代わりに、矛先が会津に向かった、という展開が重要という解釈のようだ。
  • 会津が主役の割に、新選組斎藤一を除く)の描き方が雑なのが少々残念だ。どこにいっても斎藤一がうろうろしているのも不自然。近藤勇土方歳三はどうしたのか? ドラマとしては、印象的にINしてきた人は、OUTも明示してほしいと思う。たとえば斎藤が「近藤さんもいなくなってしまった……。土方さん、会津で会おう」とつぶやくとか、手はあったのではないか。
  • 会津の軍制改革は結構だが、今日改革を行なって明日成果が出るものではあるまい。薩摩も長州も既に軍制改革を行なった上で鳥羽伏見に臨んでいたのだ。また、軍備増強には金がかかる。薩摩は密貿易でその資金を貯め込んだ。海がなく将軍家ともツーツーの会津藩はへそくりなどない。その上京都守護職で散財し尽くした。新政府軍に対抗できるだけの軍備を備える見通しはどこにあったのか。見通しがなくてもやるしかなかったのだろうが、どの程度の見通しを持っていたのかは気になる。玉砕覚悟ならそれもいいけど、勝てるつもりだったのなら、時代錯誤もはなはだしいと述べるしかない。
  • 背中で哀愁を表現する松重豊の演技が見事。
  • 尚之助が厳しい顔つきになっていた。夫婦漫才の相方がここまで険しい顔になったことが、会津の深刻さを物語っていた。

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