窓の向こうに

月に数回映画館に通う程度の映画ファンです。自分が見た映画やドラマの感想を書いています。

石原さとみの熱演「眠りの森」

新参者・加賀恭一郎、3年ぶりに登場。

原作

出演

警察関係者
高柳バレエ団
  • 石原さとみ(浅岡未緒、「白鳥の湖」では黒鳥を踊る)
  • 音月桂(高柳亜希子、トップダンサー)
  • 木南晴夏(斎藤葉瑠子、未緒の親友/不審者に襲われ殺害してしまう)
  • 大谷英子(森井靖子、以前は亜希子とトップ争いをしていたが最近は不調)
  • 宮尾俊太郎(紺野健彦、エース)
  • 益子倭(柳生講介、若手のホープ/葉瑠子の恋人)
  • 平岳大(梶田康成、演出家)
  • 堀内敬子(中野妙子、教師)
  • 草村礼子(高柳静子、経営者/亜希子の養母)
その他

内容(ネタバレあり)

4年前、高柳亜希子と森井靖子はニューヨークに一年間バレエ留学したが、その時亜希子はニューヨーク在住の日本人画家・青木と恋に落ちてしまう。が、帰国の日が迫り、青木と別れて日本に戻りバレエに専念する決意をする。青木は納得せずニューヨークに残るよう頼み、聞き入れない亜希子を力づくで押さえようとして揉み合いになり、手にしたナイフが刺さってしまう。

幸い青木は一命を取り留めたが、亜希子は梶田を呼んで事情を説明、梶田は青木に、彼女の将来を考えて二度と亜希子につきまとわないように、また亜希子と付き合っていたことを誰にも口外しないように命じる。青木は梶田の命に従ったが、亜希子のことが忘れられず、自暴自棄の生活を送り、衰弱して亡くなってしまう。

事情を知った風間は、高柳バレエ団に亜希子を訪れ、青木の命がある間にニューヨークへ来て一目でもいいから青木を見舞ってほしいと懇願する。断わった亜希子に、力づくで言うことを聞かせようと揉み合いになったところを、後ろから未緒が殴りつけ、打ち所が悪くて風間は死んでしまう。

未緒は、半年前に葉瑠子の運転する自動車に同乗中、葉瑠子の起こした交通事故の影響で聴力を失いかけていた。音楽が聞こえなければダンサーは務まらない。次の「眠りの森の美女」を最後の公演と決めていた未緒は、公演の邪魔をされたくない一心で風間を殴ってしまったのだ。未緒に責任を感じる葉瑠子は、自分が罪をかぶる決心をし、暴漢に襲われ正当防衛で殺したと警察に告げる……

感想

非常に面白かった。登場人物が多く、最初は混乱したが、見終ったあと、録画したものをもう一度最初から見直してみると、細部に到るまでよく作り込まれていることがわかる。

これは、浅岡未緒という希代のダンサーの物語である。不幸な事故によって起きた問題にも正面から立ち向かい、いつ聴力を失うかわからない不安と闘いつつ、踊っている途中でたとえ音楽が急に聞こえなくなっても踊れるように音楽を身体にしみつかせ(るよう努力を重ね)、残りわずかなバレエ人生にすべてを賭ける。一回目に見た時は彼女は恋愛問題には無縁と思っていたが、二度目に見ると、加賀と心を通い合わせている風に受け取れるシーンもある。最後、加賀の腕に抱かれる中で完全に耳が聞こえなくなる場面は壮絶であった。彼女が最後に聞いたのが加賀の声だったのは、せめてもの幸せだったか。

加賀と太田の関係性もうまい。

「本庁から刑事さんがくると、我々所轄の人間がどれほど気を遣うかわかりますか?」
「いえ、わかりません」
「わかろうと努力しろよっっ!!」

「俺は出世を諦めてるからはっきり言うけど、捜査一課の人間は大嫌いなんだ」
「知ってます」

当初のこうしたかけあいはコミカルではあったが、とにかく太田がしょぼくれた冴えないオッサンで、エリートを嫌っているのがよくわかる。ところが、そのうちに加賀を飲みに誘うようになり、最後は加賀に味方して管理官に(加賀のニューヨーク出張を)直訴するまでになる。この変化がうまかった。柄本明の真骨頂だろう。

高柳バレエ団の人間が、皆バレエがうまくてびっくり。バレエの専門家に演技をやらせたのか、バレエの素養のある俳優を集めたのか。あとで調べると、宮尾俊太郎、益子倭は熊川哲也が主宰するKバレエカンパニーのメンバーだとのこと。だとすると前者だ。恐らく他にも専門家がエキストラで出場しているのだろう。(しかし益子倭の演技は素人には見えない。まあバレエも演劇の一種みたいなものだから、この程度はやればできるものなのか?)音月桂は元宝塚で雪組トップスターだったそうだから、後者に当たるか。

では石原さとみは? これもいろいろ調べると、どうも舞台での踊りは、首から下はプロのバレリーナで、それをCG合成したものらしいのだが、仮にそうだとしても、あの表情の豊かさはどうだろう。練習風景の身体の柔らかさは? 本作は石原さとみの熱演が強く印象に残るドラマだった。

冒頭チョイ役で仲間由紀恵が登場。仲間が共演することは話題になっていたが、あんな役とはね。加賀の見合いの相手で、一緒にバレエを見に行くのだが、徹夜明けの加賀はぐっすり眠ってしまう。この時の加賀の眠り方やいびきの音は戯画的で、まさにTRICKの風景であった。仲間は「加賀さん、加賀さん」と声をかけていたが、「コラ! バカ上田」と言い出すのではないかと思ったぞよ。TRICKテレビ朝日、新参者はTBS。いいのかな。

ところで、青木、風間、梶田の男三人はどうしようもないクズだ。だから死んでも当然だとは言わないけど、少なくとも同情はできなかった。梶田が青木に「亜希子の名前は出すな」と言ったのは、警察やマスコミに対してという意味だろう。後輩の風間にまで「俺の彼女の名前は靖子だ」と言う理由が全くわからん。別れた相手が忘れられないのは仕方がないが、だからといって自分の健康を顧みないのはただのバカ。そもそも別れるという相手に刃物を向けるなんてサイテー。

風間は風間で、亜希子に「あなたは青木さんではなくバレエを選んだんだ!」って……そこまでわかっているなら、青木のためにニューヨークへ行くというのがどんなに無茶な頼みか、わかるだろうに。しかも、口で言ってわからないからといって手を出すのはサイテー(さすがは青木の後輩)。

梶田の演出家としてのやり方がいいのか悪いのか、僕に判断する能力はない。ただし亜希子を守るために靖子がいくら犠牲になっても構わないとする考え方は、批判されてしかるべきだろう。

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