カンヌ国際映画祭審査委員賞「そして父になる」

今月17本目。数だけでいえばかなり見たけど、観たいものが観られないでいるうちに次々に新しい(面白そうな)作品が公開される。追われている感が強い。今月はあと4本(「最愛の大地」「ワールド・ウォーZ」「許されざる者」「ウルヴァリン」)観たかった。

題名そして父になる
監督・脚本是枝裕和
出演福山雅治(野々宮良多)、尾野真千子(野々宮みどり、良多の妻)、二宮慶多(野々宮慶多、良多の息子)、夏八木勲(野々宮良輔、良多の父)、風吹ジュン(野々宮のぶ子、良輔の妻)、樹木希林(石関里子、みどりの母)、國村隼(上山一至、良多の上司)、田中哲司(弁護士、良多の友人)、井浦新(良多の職場の同僚)、リリー・フランキー(斎木雄大)、真木よう子(斎木ゆかり、雄大の妻)、黄升荽(斎木琉晴、雄大の息子)、中村ゆり(看護師)、ピエール瀧(看護師の夫)、大河内浩(病院側の弁護士)、高橋和也(野々宮大輔、良多の兄)、吉田羊(良多の勤務先の社員)、木野花(慶多受験時の面接官)、他
公式サイト映画「そして父になる」公式サイト
制作日本(2013年9月28日公開)
劇場新宿ピカデリー

内容紹介

良多は建築会社に勤めるエリートサラリーマン。都心の高級マンションに住み、重要なプロジェクトを任され、一人息子の慶多もおおいに可愛がる生活を送っている。子供には優しいパパだが、ピアノを習わせていて、毎日練習するように言い、一日でも休もうとすると厳しく叱咤する側面も持つ。

みどりは、小学校は公立でもいいと思っていたが、良多は私立への進学を主張。親子三人で努力して受験に臨み、見事合格を果たす。まあ、順風満帆な日々を過ごしているわけだ。

そんなある日、病院から、子供を取り違えている可能性があると連絡があった。同日出産した別の女性が、子供の小学校入学に際して血液検査をしたら自分の子どもではあり得ない血液型だったと。同時期に男の子を出産したのは野々村みどりだけだった。その後、DNA鑑定の結果、慶多は良多・みどりの子ではないことが証明された。

斎木雄大・ゆかり夫妻と本当の子どもである琉晴に会う。琉晴の下に二人の子がいた。そして野々宮夫妻に会うなり、「慰謝料はいくらくらい出るかな」と話し出す。「慰謝料の問題ではないでしょう」と言っても「誠意と言ったらお金のことですよ」と言い、夫婦顔を見合わせていやらしく笑う。さらに一緒に食事をしてみると、一家そろって行儀は悪く、品のない振る舞いが目立つ。

病院側は、子供を交換し、本来の(血のつながった)親子関係に戻ることを薦めるが、6年も一緒に過ごしてきたのだ。そう簡単にこれまで育ててきた子を手放せるわけがない。葛藤する4人の親たちが出した結論は……

雑感

映画として実によくできていたというべきだろう。最初は野々宮家の描写から始まる。ここをじっくり描くのでまず野々宮家に感情移入する。広い家に住めていいなとか、良多は日曜日の出勤になることが多いのかそれは大変だなとか、遅く帰ってもみどりが待っていてすぐ食事の支度をしてくれるのはうらやましいなとか、良多は慶多を可愛がっているけど、躾には厳しいんだなとか。それは慶多のことを愛するがゆえなんだなとか。

良多の視点で斎木一家に接すると、あーこりゃねーわと思う。こういう人たちと、これから当分の間(もしかしたら一生)付き合っていかないといけないのか、こんな両親に育てられた琉晴がいったいどういう子になっているのか、良多に成り代わって心配してしまう。

しかし、斎木一家と付き合ううちに、良多の独善的で、他人を信用しない・できない性格や、良多に何も言えず抱え込んでしまうみどりの性格が表に出てくるようになり、同時に雄大・ゆかり夫妻の、お互いに言いたいことを言い合い、がさつだけれど暖かい人柄がだんだんわかってくる。観客は斎木夫妻に次第に好意を持ち、同時に野々宮夫妻(というより良多)に嫌悪感を抱くようになる。この流れが実に見事だ。

予告編を見た時、それほど大きな問題なのだろうかと一瞬思った。親には子が、子には親が倍に増えると考えれば。親同士が仲良くなり、家族ぐるみで付き合いが続いて行けば、両方のいいところを受け継ぐことができ、案外悪くはないのでは、と。が、問題はそう簡単ではないことをしょっぱなから突きつける。進学にも躾にも家ごとの方針がある。特に野々宮家と斎木家のように極端に違う場合は融合は基本的に無理だ。生活の程度(裕福さ)も違う。そもそもみどりは実家の近く(群馬)の産科に行ったので、今住んでいるとこからは距離がある。新幹線を使わなければ移動できず、少なくとも小学生の子どもが気軽に行き来できる距離ではない。こういう設定も地味にうまい。

うちには子がいないので、もし自分に子がいたら自分はどういう父親になっていたか、想像するのは難しいが、子供と接する時間が少ないと斎木やみどりから指摘される良多だが、僕から見れば実に多くの時間を子供のために遣っている。仕事を、ちゃんと納得のいくまでやろうと思うと、相応の時間は必要で、子供のために良多程度の時間を割くのだって、僕には無理ではないかと思えてしまう。

子どもの将来を考えれば、ただ健康で元気でいてくれればそれでいい、というわけにはなかなかいかない。ピアノを習わせるのがいいのか、私立に進学させるのがいいのかは賛否両論あるにしても、ある程度は厳しく接する必要はあろう。良多は、彼なりにそのあたりをあれこれ考え、慶多に接していた。子供ができれば誰しもその程度のことは考えるのかも知れないが、僕には立派に感じられた。つまり、その程度には父親を務めているのだ、良多は。

野々宮一家にはいろいろな問題が内在していたことが徐々に明らかになる。これらは、もしかしたら一生表面化しかなかったかも知れないし、子供の取り違えという問題がなくても、いつか別の形で表面化したかも知れない。が、とにかく、取り違えの問題を契機にして表面化してきたのは事実。良多は、赤ん坊の取り違えをした看護婦に毒づく。あなたのおかげで、我が家はボロボロですよ、と……。

一方、斎木家の方も問題がないとは言わない。これから先、子供が大きくなれば学費だってかかるようになる。子供たちが、英会話を習いたい絵を習いたいと言い出すことはないのだろうか。海外留学したいと言い出すことは。そうでなくても、独立した個室が欲しいと言ってきたらどうするつもりだろう。兄弟の中には女の子がいるから、いずれ一緒に寝たり同じ部屋で着替えたりというころはできなくなる。その時はどうするか。お金がなければないなりの生活をするしかないが、野々宮の生活レベルを知ってしまった斎木家の子どもたちや観客にとって、それは我慢できることなのか。

配役

  • 夏八木勲はこれが遺作。まだ「永遠の0」が残っているけど。
  • キャストも、それぞれが嵌まり役だった。好感度No.1男・福山雅治がよくこんな嫌な性格の男を演じる気になったものだ。その「嫌な男」ぶりが見事。役者として一皮剥けたのではないか。尾野真千子は「探偵はBARにる2」とは正反対な性格。真木よう子も「さよなら渓谷」とは似ても似つかぬ役柄。よくも演じ分けられるものだ。なによりリリー・フランキーがうまい。リリーは本来はイラストレーターで小説家。本格的な役者デビューは40を過ぎてからなのに、なんでこんなにすごいんだ。
  • 唯一残念だったのが風吹ジュンだ。下手なのではない。セリフまわしもうまいし、細やかな感情表現も絶妙なのだが、残念ながら演じ分けができない。風吹ジュンの母親役は全員同じに見える。映画ではつい先日「真夏の方程式」で福山と共演したばかり。NHK大河でも「八重の桜」で出ずっぱり。また風吹かとちょっとうんざり。

リンク

福山さんの傲慢な一言でリリーさんが福山さんに殴りかかりそうになり、ぎりぎり思いとどまって女子学生のように軽く頭をはたくところ。リリーさんの歯がゆさとか無念さとか悔しさとかの思いが複雑にギュッと凝縮した素晴らしいシーンだった。この人はいま、福山さんが直面している父親になるという壁にかつてぶつかり、同じ苦悩を共有した人なんだなあと思った。

斎木の「いい父親っぷり」にやられて、そのたびに傷ついている福山雅治の演技が地味に良かったなあ。

以下ネタバレあり

二組の夫婦が結局自分の(血のつながった)子を引き取る決心をした時、なぜそのことを子にきちんと説明しなかったのかが謎だ。小学校一年生であれば、その程度の話は十分理解できるはず(納得がいくかどうかは別にして)。それを話しておかないと、元々の親が自分を捨てたと感じるのではないか。それは生涯、心の傷になりはしないか。

ラスト直前の、良多最後のセリフを、予告編で流していたがバカかと思う。2時間かけて登場人物が(観客も)悩み、傷つき、葛藤し、その上で出てきたセリフを最初に聞かせてしまってどうするんだ。

あれほどプライドが高く、負けず嫌いな良多が、最後に、これまでの自分は父親としてはダメだったと認めるシーンは圧巻。これから良多は父になるのだ。
(2013/10/05 記)