こんなすごい見応えのある映画だったとは「さよなら渓谷」

題名さよなら渓谷
監督大森立嗣
原作吉田修一
出演大西信満尾崎俊介)、真木よう子(尾崎かなこ、俊介の妻)、大森南朋(渡辺一彦、雑誌記者)、鈴木杏小林杏奈、雑誌記者)、鶴田真由(渡辺詩織、一彦の妻)、井浦新(青柳亨、水谷夏美の夫)、新井浩文(藤本尚人、尾崎俊介の学生時代の後輩)、木下ほうか(刑事)、三浦誠己(?)、日向丈(?)、他
公式サイト映画「さよなら渓谷」公式サイト
制作日本(2013年6月22日公開)
劇場チネチッタ

内容紹介

尾崎俊介とかなこの暮らす古い都営住宅のまわりにはマスコミが押し寄せている。隣人の立花里美が息子の萌を殺害した容疑でまさに逮捕されるところなのだ。

里美の供述は二転三転するが、隣人の俊介と深い関係にあり、子供さえいなければ一緒になってくれると言った、というようなことを言い出したらしい。俊介は警察に事情聴取され、言下に否定したためいったんは帰されたが、妻のかなこが「以前から俊介は里美と関係を持っていた、自分はそれを感ずいていた」と証言したため、改めて警察の厳しい取り調べを受けることになる。かなこが証言したという説明を受けた俊介は、もはや否定せず、認める供述を始める。

週刊誌記者の渡辺は、以前から里美や俊介、かなこを取材していて、俊介と里美が関係を持っていたことが信じられない。そして俊介の過去を追ううちに驚愕の事実を突き止める――

雑感

真木よう子は輪郭のはっきりしない女優だ。たとえば尾野真千子は、映画では「クライマーズ・ハイ」「外事警察」「探偵はBARにいる2」で観たが、演じるキャラクターは異なるものの、尾野真千子の存在は非常にくっきりとしたものであり、鮮明に印象に残っている。一方、真木よう子はテレビドラマの「龍馬伝」「SP」「週刊真木よう子」、映画の「SP」「外事警察」「モテキ」とずいぶんいろいろ見ているのだけど、自分の中で「真木よう子」という名前と実像のピントが合っていない。

これは悪口ではない。とらえどころのない不思議な魅力がある、という意味でもある。本作は真木よう子が主演だというただそれだけで観たいと思った。今度はどのような役を、どのように演じるのか興味があったからだ。そして今度こそその影を捕まえてみたい、と思った。

結果、素晴らしい熱演だったし、観て良かったと思うが、依然として輪郭がはっきりしないままなのだ。

冒頭、俊介とかなこが抱き合うシーンから始まる。それもホテル等ではなく木造の古いアパートっぽい。遊びにきているのか、一緒に暮らしているのか。一緒に暮らしているにしては家の中は生活感がない。二人の様子も、恋人ならもっとラブラブっぽい雰囲気があるだろうし、夫婦ならもう少し慣れ合った雰囲気があるだろうに、一見親しげに会話をするものの、どこかよそよそしさがある。だから、少ししてかなこが俊介の職場に電話し「妻です」と名乗るのを聞いて実は仰天した。夫婦だったのかよ! 全然そうは見えなかったよ! と。

当初、これは真木よう子が下手なせいかと勝手に解釈していた。行為後のけだるさを表現したつもりかも知れないが、変によそよそしく感じられちゃうよ、と。ところが話が進むにつれ、これはまさに受けた印象の通りの間柄だったことがわかる。このおままごとのような白々しい関係は、真木よう子渾身の演技だったのだ。大西信満もだが。

そのあとはすごかった。まだ二人が付き合う前、二人で数日間の逃避行をするくだりがある。この間のかなこの(俊介に対する)気持ちの変化の表現は、余人をもって代え難しと思う。ここをきちんと演じたからこそ、冒頭の不思議な関係に説得力が出てきたのだ。

ちなみに、週刊誌などで「真木よう子、濃厚なベッドシーン!」「『ベロニカは死ぬことにした』以来のGカップを披露!」などと扇情的に紹介されているが、確かに濃厚なベッドシーンはあるし、全裸を披露しているけれども、肝心な箇所は陰になって全然見えないので、それ(だけ)を期待するならやめた方がいい。

ところで、多くのドラマでベッドシーンが描かれるが、その多くは(ポルノ映画を除いて)添え物である。大人にとっては自然な行為だから、描くのも自然だが、キャッチーにするために敢えて挿入することも多く、たいていそのシーンはなくても話が通じる。

しかし、本作は、まさにそのシーンがテーマになっており、濃厚なベッドシーンは切り離すわけにはいかない。こういう作品は珍しい。

性行為は、愛情表現の手段か、性欲を満たすための行為である。そのどちらか二者択一、ということではなく、ある時は愛情が70%で性欲が30%とか、ある時は性欲が90%で愛情が10%とか、ブレンド具合はその時々であろうが、そのふたつの側面を持つものである、と考えていた。

本作では、愛情でも性欲でもなく、空しさを埋めるために抱き合うこともあるんだということが示されている。言われてみれば、確かにそういうこともある。が、それは哀しい行為だ。自分はできればそういう気持ちではしたくない。でも、それ以外に空しさを埋める手段がない(思いつかない)人はどうすればいいのか。そういうことがテーマのひとつである。だから、これはすごく大人のドラマなのだ。

この作品のレーティングはR15+になっているが、R18+でもいいくらいだ。僕は、このような性行為はあまり若い人には見てほしくないと思う。

配役

大森立嗣監督は「まほろ駅前多田便利軒」の監督。この作品には鈴木杏も出演していた。木下ほうかはすごく覚えがあるのだが、どこで印象に残ったのか記憶にない。出演リストを見ると、「ガリレオXX 内海薫最後の事件 愚弄ぶ(もてあそぶ)」だろうか……

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